ベテラン遠藤が感じたザックジャパンの成長=3度目の最終予選、踏み出した大きな一歩

元川悦子

オマーンの出方を見て本田のポジションを指示

オマーンの守備が緩いと見た遠藤は、本田にポジションを下げないように指示。結果的に、この判断が功を奏した 【写真は共同】

 遠藤の中では、オマーンが引いてくる場合と、そうでない場合の2つの想定があった。
「どっちにしても、足元で素早くつなぐのが自分たちの一番の持ち味。それを前面に押し出した上で、状況次第で自分たちで戦い方を判断していくことも大事。早めに点が取れなくても焦る必要は一切ないし、前がかりになりすぎて自滅することだけは避けたい。最終予選はどの試合も難しいけど、初戦だからといって硬くならず、プレーを楽しむくらいの気持ちでやればいい」と彼は繰り返しコメントし、チーム全体を落ち着かせることを心掛けていた。

 実際、直近の公式戦である今年2月のウズベキスタン戦でも、日本は攻め続けながらゴールを奪えず、リスクマネジメントが疎かになったところで一発のカウンターを浴びている。後ろの人数が手薄になった揚げ句、ボランチとセンターバックのカバーリングが遅れるという最悪の状況を招き、まさかの3次予選2連敗を喫したのだ。遠藤が出場した国際Aマッチ116試合の中には、こういった苦い経験は幾度もあった。それを教訓にしているからこそ、自分たちのサッカーを貫くことの重要性を強調したかったのだろう。

 迎えた本番、オマーンの守備は予想外に緩かった。「それなりに引いてブロックを作ってはいたけど、マークがルーズでしっかり人にもついてこなかった。僕らとしてはそんなに引いて守られている感じはしなかった」と長谷部もコメントしたように、日本にしてみればかなり攻略しやすい状況だった。フランス人のポール・ルグエン監督はボールを回しながら攻めるモダンフットボールをオマーンに植え付けようとしているのかもしれないが、真っ向勝負を挑んだところで、現時点では日本に勝てるはずがない。そんな指揮官の戦い方も追い風となり、日本はかなり自由に攻撃を仕掛けることができた。

「相手の12番(アハメド・ムバラク)が圭佑にマンツーマンで来る可能性もあったんで、そうなればポジションチェンジしながら対応しようと思っていましたけど、5分、10分が経ってそうじゃないことが分かった。それで圭佑にあまり下がってこないように言いました」と遠藤も言う。自らはサポートに回りながら、本田をゴールに近いところに行かせて彼の先制点を引き出し、高い位置で連動したボール回しをさせるよう仕向けたのだ。
 これによって、両サイドも高い位置まで上がることができ、ビッグチャンスが数多く生まれた。「外からどんどん追い越して行くというのは、うちのサイドバックの特徴の1つ。左の長友(佑都)だけじゃなくて、右の内田(篤人)に関しても酒井(宏樹)に関してもよくできていた。あれだけサイドバックが上がってくれれば、そこをうまく使うだけでビッグチャンスになる。そういう形を今後も続けてやっていければと思います」と遠藤も大きな手応えを感じたようだ。

 ベテランとしての確固たる存在感を示し、彼自身は後半41分にベンチに退いた。「交代の理由は全然分からないですけど、まあ残り4分だったから……」と語る遠藤の顔には多少なりとも不完全燃焼の感がうかがえた。アルベルト・ザッケローニ監督としては、今季のG大阪での心身両面での負担、32歳という年齢、3連戦の過密日程などを考慮してのさい配だったのだろうが、遠藤には常にピッチに立ち続けていたいというどん欲な思いがある。それだけの意地とプライドがあれば、2年後のブラジルまで高いレベルで走り続けていけるだろう。

井原氏の大記録を抜く日も間近に

 かつてない最高のスタートを切った今回の最終予選だが、内田も言うように「まだ8分の1」が終わったばかり。ドイツ大会の最終予選でも2戦目でイランに敗れて窮地に陥っている。南アフリカ大会の時もウズベキスタンとの第2戦をホームで引き分け、岡田武史監督の解任騒動が持ち上がったほどだ。もし8日のヨルダン戦で足踏みしたら、チームに予期せぬ暗雲が漂うかもしれない。それが最終予選の恐ろしさだ。

 遠藤もその怖さを熟知している。
「僕らの試合の後、ヨルダンがイラクと戦っているところをテレビで見ましたけど、ホームでもしっかりブロックを作る守備をしていたんで、日本に来たらさらにそうなるイメージを持っています。メンバーもアジアカップで戦った時に見た顔がいっぱいいたし、戦い方はそう変わっていない気がします。だからこそ、相手の網にかかってカウンターを食らうのは怖い。オマーン戦もゴール前に人が多かったのに十分崩せたし、慌てる必要は一切ないと思います」とあらためて平常心で戦うことの大切さを強調した。

 それを実践できれば、本田が掲げた「今回の3連戦で勝ち点9」という目標をクリアできる可能性も高まる。そのためにも、遠藤にはベテランとしての存在感を発揮して、チームを確実にコントロールしてもらわなければならない。井原正巳氏の持つキャップ数122という大記録を抜く日も間近に迫ってきた。彼にはこの先も獅子奮迅の働きが求められる。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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