ウェバーvs.ベッテルの“目に見えない攻防戦”=F1=可夢偉は不運なアクシデントでリタイア

吉田知弘

縦軸はラップタイム(1分18〜22秒の部分を表示)、横軸は周回数。レース中盤はウェバーとベッテルの“目に見えない攻防戦”が繰り広げられた 【吉田知弘】

 2012年のF1第6戦モナコGP決勝が27日に行われ、ポールポジションからスタートしたマーク・ウェバー(レッドブル)がそのまま逃げ切って今季初優勝を飾った。

 コース幅が非常に狭く、ほとんどが低速コーナーで構成されているモンテカルロ市街地コース。そのため前のマシンを追い抜くシーンがほとんどなく、今回も先頭からスタートしたウェバーが終始有利な展開でリードした。一見単調なレースに見えたファンも多かったかもしれないが、9番手からスタートしたセバスチャン・ベッテル(レッドブル)は、そんな単調な勝ち方ではなく“最初から狙ったモナコでの逆転勝利”の戦略を選んでいた。今回は、現王者が描いていた逆転のシナリオについて細かく見ていく。

ベッテルが描いていた“逆転のシナリオ”

 予選Q3でスーパーソフトタイヤを使った積極的なタイムアタックを避けたベッテルは、9番手スタートとなった。予選Q3に進出したドライバーは、最終セッションでベストタイムを出した時に使用したタイヤでレースをスタートしなければならないため、現王者は“あえて”スーパーソフトタイヤを温存すべくQ3ではタイムアタックを行わず、後方からソフトタイヤを装着して逆転を狙う戦略を選んだ。

 普通なら、追い抜きができないモナコで9番手スタートは、ほぼチャンスがないに等しいが、ポールポジションのウェバーをはじめとした上位陣はスーパーソフトタイヤを装着してのスタート。消耗が早く、レース前半で最初のタイヤ交換を強いられる可能性が高く、場合によっては2回ストップになることも予想された。

 そこでベッテルの考えた“逆転のシナリオ”はこうだった。スタート直後は満タンで、スーパーソフトでも各車ペースが上がらない。そうしたライバルをしっかり追いかけながらタイヤを温存。上位陣が前半でタイヤ交換をしている間にトップに浮上し、前方がクリアになったところでペースアップする。自分のタイヤ交換までにピット作業の所要時間(約26秒)を稼げれば、最終的に前方にいた全員を逆転することができるという戦略だった。もし26秒のリードを築けなくても、相手が2回ストップすれば、レース序盤で大きく引き離されない限り、1回ストップ作戦のベッテルが有利になる。

 スタートからトップで逃げ切る「正攻法」のウェバーに対し、後方から巧みなレース戦略で逆転を狙う「奇襲作戦」を選んだベッテル。レース中盤は、この2人による“目に見えない攻防戦”が繰り広げられていた。

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著者プロフィール

1984年生まれ。幼少の頃から父の影響でF1に興味を持ち、モータースポーツの魅力を1人でも多くの人に伝えるべく、大学卒業後から本格的に取材・執筆を開始。現在では国内のSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に年間20戦以上を現地で取材し、主にWebメディアにニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載。日本モータースポーツ記者会会員

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