宮市亮は最終予選のジョーカーになり得るのか=ザックジャパンが手に入れた“飛び道具”

元川悦子

現時点では清武に続くジョーカー枠2番手

まだ周囲との連係に課題を残すが、宮市のスピードはザックジャパンの大きな武器になるはずだ 【写真:徳原隆元/アフロ】

 アゼルバイジャン戦では、大器の片りんを示すことはできた。19歳の若手のデビュー戦ということで、ザック監督も周囲も多少のミスや足りない部分は大目に見てくれただろう。けれども、勝負のかかる最終予選はそうはいかない。チーム内での競争に勝たなければピッチに立てないし、ゴールを求められてくる。サッカーに年齢や経験は一切関係ない。すべては結果で評価される。

 今のザックジャパンを見た時、2列目のジョーカー枠には清武がいる。宮市が前述した通り、彼は昨年8月の日韓戦でいきなり2アシストを記録し、3次予選でも初戦の北朝鮮戦で吉田麻也の決勝弾をお膳立てするなど、目に見える結果を残し続けている。今季はけがやコンディション不良でやや苦しんでいるが、ザック監督の中では今のところ清武がファーストチョイスだろう。

 チャンスメークからゴールまで幅広くこなす清武と、矢のような速さで一気に相手の背後を突いて得点を狙う宮市ではタイプが異なる。起用法も変わってくるだろうが、交代枠は3しかない。ジョーカーの出場チャンスは限られている。極めて短いプレー時間を確保すべく、宮市は周囲との連係向上や決定力アップに努めていく必要がある。

 幸いにして、最終予選を戦うにあたっては20日間の拘束期間がある。ウズベキスタン戦、アゼルバイジャン戦とまだ6日間しか日本代表で練習や試合をしていない宮市にとっては、周りとコンビネーションをすり合わせていく絶好の機会になるはずだ。

 アゼルバイジャン戦前に「練習をやってみたけど、まだ周囲と合わないところがある」と漏らし、実際のゲームでも飛び出しのタイミングを測りかねている様子が見受けられた。ザック監督が求める外に大きく開いてから中を突くという動きも完ぺきにはできていなかったし、縦関係を形成している長友佑都の攻め上がりを引き出すシーンも少なかった。
 守備面も目の前の相手には激しくいっていたものの、同サイドの選手と絡んで相手を追い込むポジションがうまく取れなかったり、カバーリングが遅れたりした。こうした課題を修正する多くの時間が与えられるのは本当にラッキーだ。適応力と吸収力が高い宮市なら、こうしたテーマを1つ1つ、確実に克服していけるだろう。

宮市の速さを生かすすべを見いだせるか

「いつも最初の時は緊張してしまう方なんで……。でも次からは大丈夫。フェイエノールトでもボルトンでも2戦目で点を取っているんで、こっちでも2戦目で点を取れたらいいなと思っています」と意気込む宮市は、6月3日の最終予選初戦、オマーン戦での初ゴールを思い描いているようだ。

 もっとも、自陣に引いて守りを固めてくるアジアの相手を攻略するのは、日本にとって常に困難なテーマだ。今季ブンデスリーガで13ゴールをマークした香川でさえ、「まだまだお互いのイメージや距離感に開きがあるし、バイタルエリアでボールを回さないと次は苦しくなる。引いて守られるから裏のスペースもなくなるし、一瞬のチャンスで決め切らないと、最終予選は難しい試合になると思う」と神経をとがらせている。

 U−17代表でアジア最終予選を経験している宮市もその難しさを熟知している。そういう状況下で、勝利を手繰り寄せるためには一瞬のスキを突き、泥臭くゴールを狙っていくことしかない。前回の最終予選の1シーンから、彼はその重要性を学んだという。

「岡崎選手がウズベキスタンで決めたあのゴールがすごく印象に残っています。自分はまだ高校生だったけど、みんなで話が盛り上がりました。最終予選はホントに厳しい試合しかない。自分がそこに立てたら、しっかり頑張りたいと思います」と力を込める。

 宮市亮という“飛び道具”を確実に武器にできれば、日本は最終予選序盤の3連戦で好スタートを切れるかもしれない。絶対的な速さとゴールへの鋭さを持つ若きアタッカーを生かすすべを見いだすことが、日本代表の決定力不足解消の鍵になりそうだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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