勝手連的MDPから見えるJ2の風景=J2漫遊記 第2回・FC岐阜編

宇都宮徹壱

岐大通を配って感じる、それぞれのJ2の立ち位置

岐大通の紙面。オフセット印刷ながら、文字がびっしり埋められていて、内容も実にディープ 【宇都宮徹壱】

 以来、岐大通はほぼ毎回、ホームゲームでは必ず配布されている(「ほぼ」というのはJ2が3クールだった08年と09年は抜けている試合もあったからだ)。ホーム&アウエーとなった10年以降は、リーグ戦のすべてのホームゲームで配布しているという。13日の松本戦で通巻89号。これを編集の鋳造さん、印刷のささたくさん、そして主筆の「ぐん、」さんの3人で基本的に回している。

 私も個人メルマガをやっているので、続けることの大変さはそれなりに理解しているつもりだ。続ける秘訣(ひけつ)は何かと聞くと、鋳造さんいわく「いつでも止められるからですよ」ときっぱり。では次の世代に引き継ぐ考えがあるかと尋ねると「これがなかなかいないんですよねえ」と、いささか残念そうな答えが返ってきた。

「クラブから距離をとる」というポリシーは貫きながらも、岐大通とクラブとの間にまったく関係がないわけではない。むしろ、配布に関しては毎年きちんと仁義は通しているし、前述したとおり毎号必ずクラブにも配布している。ちなみに、不甲斐ない成績に終わった昨シーズンは「全員、これを読むように」と、拡大コピーした岐大通が選手のロッカールームに貼られてあったという。実際、クラブスタッフやフロントの間でも、岐大通はよく読まれているそうだ。とはいえ「さすがに今西さんがじっくり読んでいるのを見たときはビビりました(笑)」(鋳造さん)。そりゃ、無理もない。日本における元祖GMにして、岐阜の代表取締役である今西さんが、自分の署名記事を読んでいる姿を見たら私だってビビると思う。

 一方で、アウエーで岐阜を訪れるほかのクラブのサポーターたちの間でも、この岐大通はかなり知名度があるらしい。これについても、鋳造さんに説明していただこう。
「FC東京は去年はJ2だったわけですが、岐大通のことをうわさで聞いていたらしくて、サポの皆さんは喜んでもらっていきましたね。たぶんJ2時代のお土産みたいな感覚だったと思います。実際、彼らは1年でいなくなってしまいましたから。ジェフ千葉の皆さんも、J2最初の年(10年)はやっぱり積極的にもらっていました。それが2年目になると、むしろわれわれを避けるようになりましたね(笑)。『一緒にしないでくれ』みたいな感じで。逆にわれわれとしては『ああ、貴方たち、そこまで下りてきてくれたんですね』と、ちょっと感動しました(笑)。岐大通を配っていると、いろんなクラブの、それぞれのJ2の立ち位置みたいなものが見えてきて、なかなか面白いです」

「今度はもっと辛口で書いてくれ」

久々に訪れた岐阜のホームゲームでは「Jクラブのサポーター」としての成長・進化が感じられた 【宇都宮徹壱】

 岐阜と松本との対戦は、これにカターレ富山を加えた「TOP OF 北アルプス」の一戦として開催された。4年先輩の岐阜としては、いくら相手の順位が上(この時点で14位)でサポーターの数が多いとはいえ、松本は絶対に負けたくない相手であった。しかし結果は0−1の敗戦。その敗れ方は、サポーターに言わせれば「いかにも岐阜らしい」ものであった。

 前半40分の失点シーンでは、その前にイエローカードをもらっていたDF関田寛士の甘いプレッシャーが端緒となった。そして後半32分に訪れた最大の決定機は、樋口寛規が作った最高のおぜん立てを染矢一樹が外してしまう。染矢のJ2通算100試合目を祝う横断幕を掲げていた、サポーターの落胆はいかばかりであっただろうか。試合終了後、岐阜サポーターの一部から、容赦ない罵声(ばせい)が飛んでいたのも無理もない話である。

 さて、私にとって岐阜のホームゲームを取材するのは、天皇杯を除けば実に6年ぶりのことであった。当時の岐阜は、まだ東海リーグ。あの頃、サポーターはただ「上に行く」ことだけを考え、ピッチに声援を送る姿も無邪気そのものであった。あれから6年がたち、久々に長良川を訪れてみて強く感じたのは、より激しくクラブを愛し、より厳しくチームを見守るサポーターたちの姿である。もちろん6年前と比べれば、ゴール裏の顔ぶれはそれなりに変化はあっただろう。それでもゴール裏全体で考えるならば、間違いなく「Jクラブのサポーター」としての成長・進化が感じられた。

 そして、今年で創刊から6年目を迎える岐大通も、おそらくその一助を担ってきたのであろう。岐大通が想定するメーンの読者層は、実のところ「メーンスタンドにいるライト層」であり、さらに言えば普段ほとんどネット情報に接することのない「年配の方々」である。ネット上にアップすれば、コストも安く済むし、より広く読まれるであろう情報を、あえて紙に印刷して手渡しする意義は、まさにそこにある。「今日も作ってくれたんですね、ありがとう」と、最近サッカーを見始めたようなおばさんから声を掛けられると、それがまた発行の新たなモチベーションにつながっていく。岐大通を続けることで、メーンスタンドのサッカーリテラシーも徐々に向上しているようで、最近では「もっと辛口で書いてくれ」と声を掛けられることもあるそうだ。

 今回、岐大通のスタッフに取材してみて、あらためて納得したことがある。彼らが今、最も危惧(きぐ)していることは、クラブが低迷することや経営難が続くこと以上に「FC岐阜は潮時だね」という空気がまん延することであった。だからこそ、紙面の筆致も時に厳しいものになる。

 FC岐阜を取り巻く状況が、依然として楽観できないものであることに変わりはないし、今の状況が続くことがクラブにとって決してよろしくないことは百も承知だ。それでも、岐阜に初めてのプロスポーツクラブが生まれ、そこに集う人々の中から自然発生的なメディアが生まれ、それが継続されることによって新たなサッカー文化がつむがれていったという事実は、決して過小評価すべきではない。むしろその部分にこそ、成績面や経営面だけでは推し量れない「J2クラブの存在意義」を見る思いがする。

<了>

(協力:Jリーグ)

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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