勝手連的MDPから見えるJ2の風景=J2漫遊記 第2回・FC岐阜編

宇都宮徹壱

試合前に岐阜のサポーターが貪り読む「岐大通」とは?

開門直後、岐大通を配り始める鋳造さんとささたくさん。この日は20分でさばききった 【宇都宮徹壱】

 行列は、想像していた以上に長かった。
 5月13日、岐阜の長良川競技場で行われたJ2リーグ第14節、FC岐阜対松本山雅FCの試合。この日、キックオフは19時、入場時間は16時45分となっていた。ちょうど開門直後に現場を訪れたのだが、すでに競技場のメーンゲートはグリーンのレプリカユニホームを着た地元ファンがずらりと並んでいる。昨シーズンに続き、今季もJ2リーグ最下位に低迷する岐阜だけに、スタンドが閑散としていたらどうしようと思っていたのだが、なかなかどうして、まったくの杞憂(きゆう)だったようだ(この日の公式入場者数は5088人)。

 そんな中、行列に何やらチラシのようなものを配っているユニホーム姿の2人組を発見する。受け取った人々は、すぐさまそれを貪るように熟読し始める。どうやら単なる告知のチラシではないようだ。配布作業は、およそ20分で終了。
「これだけ早くまき終わったのは、たぶん(今季の)開幕戦以来ですね。ちょっと数を絞りすぎたかもしれないです」
 そう語るのは「吉田鋳造」さん。仲間の「ささたく」さんと一緒に配っていたのは「岐大通」という、岐阜サポーター有志によるマッチデープログラム(MDP)である。読み方は「ぎだいどおり」なのだが、正式名称は「FC岐阜大好き通信」。この日は550部を印刷し、うち50部をクラブに配達、残り500部は瞬く間に配布してしまった。

 FC岐阜には、もちろんオフィシャルのMDPは存在する。A3の2つ折りで、1面と4面がカラー、2面と3面がモノクロ。1面に服部年宏と今季のスローガンである「MOVING こころ、ひとつに。」がどーんときて、2面は当日の試合の見どころと所属選手リスト、3面がスタジアムインフォメーションやイベントスケジュール、そして4面がスポンサー紹介と、良く言えば手堅く、悪く言えばありきたりな内容となっている。

 これに対して岐大通は、サイズはオフィシャルのMDPと一緒だが、単色のオフセット印刷で文字ばかり。1面がプレビュー(この日の対戦相手である松本のチームプロフィール含む)と現在の順位表、2面と3面がレビュー(第12節の水戸戦、FC岐阜ユースの県G2リーグ、第13節の岡山戦)、そして4面には岐阜の応援ソングやチャントが紹介されている。こちらはビジュアル的な派手さはないものの、かなりの読み応えがある。実際、岐大通を受け取った人々を観察していると、すぐにポケットに入れたり捨てたりする人はまずいない。スタジアムの周囲では、屋台の料理やビールを楽しみながら、岐大通を熱心に読み込んでいる岐阜サポーターの姿をあちこちで目にした。

「クラブから距離をとる」という基本姿勢

成績面でも経営面でもネガティブなイメージがつきまとうFC岐阜。今季も苦しい状況が続く 【宇都宮徹壱】

 J2クラブのホームタウンをめぐりながら、経営や戦力だけでは語り尽くせない「J2クラブの存在意義」について、よそ者の視点から考察することを目的にスタートした「J2漫遊記」。その最初の訪問地になぜ岐阜を選んだか、ここで説明しておこう。

 理由は実に単純で、成績面でも経営面でも明るい材料に乏しいからだ。まず、成績面。第13節の時点で、岐阜はリーグ最下位に沈んでいた。昨シーズンもダントツの最下位。6勝6分け26敗という惨憺(さんたん)たる戦績であった。経営面でも、いいニュースは聞こえてこない。過去5期中、4期が赤字であり、昨シーズンの赤字は7000万円。債務超過額が増大する中、来年から導入されるクラブライセンス制度導入を踏まえて、Jリーグから経営改善指導を受けることがすでに発表されている。

 このように、岐阜は成績面でも経営面でも、かなり厳しい状況下にあるため、中央のメディアの格好の題材とされることが少なくない。かくして岐阜は、ネガティブなイメージで全国的な知名度を上げてしまった。確かに状況だけを見れば、仕方のない面もあるかもしれない。それでも、寄ってたかって岐阜に「Jのお荷物」的なレッテルを貼ることについては、あまりフェアではないように感じていた。

 そんな岐阜だからこそ、いの一番に訪ねてみようと思った。戦力面でも経営面でもない、新たな切り口からFC岐阜にアプローチすることで、もっと違ったクラブ像が浮かび上がってくるのではないか。そこで今回、私が取材対象に選んだのが岐大通であった。このアンオフィシャルなMDPが誕生したのは、2007年6月。当時、JFLだった岐阜にはオフィシャルなMDPが存在せず(またクラブとしてもそのような余力もなく)、「だったら自分たちで作ろう」と、鋳造さんたち有志が勝手連的に立ち上げた。

 岐大通にとって運命的だったのが、創刊号を出した直後、当時の監督だった戸塚哲也氏が電撃的に解任されたことである。現役時代は読売クラブ(現東京ヴェルディ)の黄金時代の一翼を担い、指導者に転じてからは当時東海リーグ1部所属だった岐阜を1年でJFL昇格へと導いた。選手からの信奉も厚く、多くのサポーターからも恩人とあがめられていた戸塚氏の解任は、当然ながら多くの賛否を呼んだ。そこで第2号では、サポーターの意見を広く求めて掲載。「解任やむなし」から「今西(和男)GM(ゼネラルマネジャー)こそ辞めてほしい」まで、幅広い意見が集まる中、鋳造さんはある確信を得るに至ったという。

「自分にとって、この号の存在は大きかったですね。これで岐大通は『クラブから距離をとる』というものに決まりましたから。たとえ原稿が足りない時でも、クラブ主催のイベントは載せない。そういう依存関係を作ってしまうと、クラブがやることにノーと言えなくなる可能性が出てくるからです。それと岐大通は、赤字も黒字も出さない程度に独自のスポンサーを付けているんですが、そこでもクラブへの依存関係は切っています」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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