天才・遠藤保仁が示す日本サッカーの未来=風間八宏が説く日本流ゲームメーカーの存在意義

「遠藤保仁のような“目”を持つ選手は決して多くない」と風間氏は語る 【松岡健三郎】

 歩んだキャリアという点においては、国内リーグを経ずにドイツに飛び出した風間八宏は、Jリーグ一筋の遠藤保仁(ガンバ大阪)とは対照的な道を進んだ選手だ。風間は筑波大学を卒業すると、多くの実業団チームからのオファーを断ってドイツのレバークーゼンに入団した。日本サッカー界の海外組の先駆け的存在である。

 しかし、「絶対的な技術」をベースに、「俯瞰(ふかん)的な視野」を持ってプレーしたゲームメーカーという意味においては、2人には多くの共通点が見られる。特に“天才”と呼ばれた点において――。

 解説者として活躍するだけでなく、筑波大学の監督(インタビュー時点/現川崎フロンターレ監督)として日本サッカー界に新たな潮流を生み出そうとしている風間の目に、現代表のゲームメーカーはどう映っているのだろうか。

「日本に1人しかいない」選手

――早速ですが遠藤保仁のプレーを見て、「おもしろい」と感じるのはどんなところですか?

 3つあります。まず1つ目は、圧倒的に技術が高いところ。遠藤はどんな状況に置かれても「ボールを扱う技術」がブレない。決して派手な技術ではないんですが、本当にいろんなものが正確。

 2つ目はひょっとしたら本人は無意識でやっているかもしれないけれど、メンタルのコントロールができていること。技術というのは日によって波があるんですが、遠藤はうまく対処できる。これをわたしは「自分の心を扱う技術」と呼んでいます。

 そして3つ目は、これが遠藤の最も突出している能力だと思いますが、「敵を扱う技術」が優れている。敵をよく見てプレーしているから、常に安定したパフォーマンスをできるし、効果的なプレーをできる。たとえば、「今日は自分が出て行く必要がないな」と思ったらほどほどにやっておくし、「おれが行かないとダメだな」って思うと積極的にゴール前に顔を出す。敵を操れるという意味では、真のチームの司令塔。日本サッカーにも昔はたくさんいたと思うんですが、だんだん減ってきたタイプの1人。絶滅種に近いMFですね。

――今、風間さんは「3つの技術」を挙げられましたが、それぞれについてもっと詳しく聞かせてください。まず遠藤の「ボールを扱う技術」ですが、どういうときにすごいと感じるんでしょうか?

 遠藤はボールを持ったときに、相手を止めることができますよね。どういうことかというと、自分のボールの置き場所を持っていて、そこにピタっとボールを止める技術があるから、相手が飛び込んでいけない。普通は「100回同じところで止めろ」って言われてもなかなか実行できないけど、遠藤はそれに近い選手だと思う。ボールを止める技術がすごいってことです。試合でよく見かけるのは、遠藤がボールを持ったときに、相手が飛び込むのを躊躇(ちゅうちょ)して棒立ちにさせられてしまうシーン。こういう技術があるから、敵が近くにいてもあまりプレッシャーを感じずにプレーできるんです。

――確かに遠藤は、敵から飛び込まれるイメージがあまりないですね

 体を激しくぶつけられて、バーンと倒されることはほとんどない。繰り返しになりますが、止める技術がすごく正確で、自分の置き場所を完ぺきに持っている選手を前にすると、守備者は飛び込めなくなるから。遠藤は敵が距離を詰めてきても、前を向いて「来てみろ」っていうところにボールを置く。

――それは日本代表の中でも特殊ですか?

 特殊というか、今はそういう選手は少ない。もしかしたら「日本に1人しかいない」って言ってもいいかもしれないですね。

止める場所=何でもできる場所

――ボールタッチと言えば小野伸二(清水エスパルス)も優れている印象がありますが、小野はどうでしょうか?

 うーん、またタイプが違うと思いますね。伸二は動きながらプレーする選手なので。ワンタッチで相手をそらしていくタイプ。伸二が優れたチャンスメーカーなのに対し、遠藤は真のゲームメーカーですね。

――なるほど、そのたとえは分かりやすいですね。ただ、小野が動きながら相手をかわせる理由は分かるんですが、なぜ遠藤は止まっていてもボールを取られないんでしょうか?

 メッシやシャビ(以上バルセロナ)もそうだけど、相手が触れない場所に1回のトラップでボールをピタっと置けると、パスもドリブルも何でも選択できるんですよ。わたしが制作したDVD(風間八宏『FOOTBALL CLINIC』Vol.1〜4)を見てもらうと分かるんですが、ちょっとボールがずれたとしても、ステップを踏み替えたり、一歩後ろに戻ることで、「自分が何でもできる場所」にボールを置ける。遠藤はそういうことを普通にできる選手なんです。相手が飛び込んできたら、かわしたりパスを出せるところにボールを置いている。止める場所=何でもできる場所っていうこと。サッカーっていうのは自分の「止める場所」を持っているか、持っていないかで、まったく別物になる。遠藤はその位置を正確に持っている選手です。

――2006年ワールドカップ・ドイツ大会ごろまでは、遠藤はぶつかり合いに課題があり、狭いエリアではプレーできないというイメージがありました

 確かにそういう部分はあったかもしれないけれど、自分の中で技術をどんどん進化させていったんだと思う。若い頃から、今のようなプレーをできていたわけではなかったので。年を重ねるごとに試合ですごく力を発揮できるようになってきた。

――狭い中でできるようになったのは、どうしてなんでしょうか?

 サッカーっていうのは、狭い中でも広い中でもやることは同じ。ボールを置く位置が正確だったら、狭い中でもできる。技術がないとどんなにスペースがあっても、ボールはどこかに行ってしまう。1メートルの中で相手がどこだったら取りに来られないかっていうのを、遠藤は見極められるようになったんじゃないでしょうか。

――そんな緻密(ちみつ)な置き場所があるんでしょうか?

 それが一流選手というもの。ゲームメークをする選手だったら、それくらいの緻密さがないと、遠藤みたいにコンスタントにはプレーはできていないはずです。

――1メートルっていうのはかなり狭いですね……。ボール何個分くらいの世界なんでしょうか?

 彼の場合だったら、ボール3個分くらいあれば、ポンポンってできるんじゃないでしょうか。

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