若手とベテランがうまく融合した女子代表 田中、美濃部らが出場権を獲得=体操

矢内由美子

きょうだいそろっての五輪出場に感涙の田中

五輪出場決定にうれし涙を見せるも、その後はすぐに五輪に向けて表情を切り替えた 【坂本清】

「五輪の切符を手にできて、本当にうれしい。でも、ここは通過点。ロンドンではもっといい演技ができるように頑張ります」

 大きな瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。5月4、5日に東京・代々木第一体育館で行われた体操NHK杯。ロンドン五輪の代表が決まるこの大会で、田中理恵(日体大研究員)はうれし涙を二度流した。

 一度目は、NHK杯を初制覇するとともに、ロンドン五輪切符を手にした瞬間。そして二度目は、女子の後に行われた男子の選考試合で、兄の和仁(徳洲会)と弟の佑典(KONAMI)がそろって五輪出場を決めたときだ。だが、涙はほんの一瞬だった。すぐにいつもの笑顔に変わり、表情を引き締めた。

「ロンドンでの目標は、チーム一丸となって、世界選手権の5位より上に行くこと。その気持ちで皆と頑張りたい」

自分らしさを貫いてつかんだ五輪の切符

田中の持ち味であるダイナミックな演技と安定性を貫けたことが強みとなった 【坂本清】

 そのために何が必要か。田中はこう語る。

「安定性を重視して、小さなミスでも減点をされないように練習したい。今回は大過失をしなかったことと、どんなときでも平常心でいられたことが良かったので、それを五輪につなげたい」

 田中の持ち味は、女子体操選手としては大柄な156センチの身長を生かしたダイナミックな演技と安定性だ。今回のNHK杯でもその特長は十二分に発揮された。目立つような過失はなく、2位以下を大きく引き離しての圧勝だった。

 とはいえ、田中にも精神的に不安な時期はあった。昨年10月に東京で行われた世界選手権後、ロンドン五輪代表選考の際、高難度の技を行った場合に得点が加算される国内内規が決まったときだ。技の難しさよりも正確さや美しさで勝負してきた田中は、「五輪に行けないのではないか」と不安にさいなまれたという。

 そこで周囲から言われたのが「難しい技を無理にやろうとするより、着地をまとめたほうがいい」というアドバイス。それを聞いた田中は「自分らしさを失ってはいけない」と思い直し、演技の美しさに磨きを掛けることにまい進した。『ピンクパンサー』と『007』の音楽をミックスした新曲で演技した最終種目のゆかでは、会場全体の視線を一身に浴びながらノーミスの舞を見せることに成功。うれし涙を流す姿もまた美しかった。

けがを乗り越えた美濃部「格別のうれしさ」

けがで一度は体操をやめようと考えた美濃部。そうした経緯があるだけに喜びはひとしおだ 【坂本清】

 田中に次ぐ2番目の成績でロンドン切符を手に入れたのは美濃部ゆう(朝日生命)だ。NHK杯初日は段違い平行棒でこの種目の最高得点である14.500をマークしたものの、続く平均台とゆかでミスが相次ぎ、初日は5位に終わっていた。

 ところが2日目、美濃部は初日に出た課題を確実に修正してきた。レオタードの色も赤から青に変えて気分一新。平均台では難度の高い連続技を完璧にこなし、2日間の全種目の最高点である14.900をマークした。

 最終種目のゆかではリスクを冒さない構成を無難にこなして、北京五輪に続く2度目の五輪切符を獲得。「北京五輪のときは、やっとメンバーに入れたという感じだったけど、今回は北京五輪とはまた違う喜びがある。(2010年に)ろっ骨を疲労骨折したとき、一度体操をやめようと思ったことがあるけれど、それでもやっぱりロンドン五輪に出たいという思いがあって続けた。だから格別のうれしさです」とすがすがしい笑顔を浮かべた。

 美濃部は朝日生命所属。北京では6人中5人が朝日生命勢だったが今回は1人だけ。美濃部が牙城(がじょう)を守ったことになる。

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著者プロフィール

北海道生まれ。北海道大卒業後にスポーツニッポン新聞社に入社し、五輪、サッカーなどを担当。06年に退社し、以後フリーランスとして活動。Jリーグ浦和レッズオフィシャルメディア『REDS TOMORROW』編集長を務める。近著に『ザック・ジャパンの流儀』(学研新書)

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