太田雄貴「今は不安しかない」 プライドと自信を再びその手に=フェンシング

田中夕子

高円宮牌W杯で決勝トーナメント1回戦敗退

高円宮牌ワールドカップ、、男子フルーレ個人戦で太田は決勝トーナメント1回戦で敗退した 【写真は共同】

 日本のエースが苦しんでいる。

「今は不安しかない。このままじゃ、出るだけの五輪にしかなりません」
 和歌山ビッグウェーブで開催されたフェンシング高円宮牌ワールドカップ、男子フルーレ個人戦。決勝トーナメント1回戦敗退を喫した太田雄貴(森永製菓)は、終始伏し目がちに敗戦の弁を述べた。

 4月20、21日のロンドン五輪アジア・オセアニア予選を皮切りに、22日から27日まではアジア選手権の男女フルーレ、男女エペ、男女サーブル、全種目の個人、団体戦が行われ、最後に高円宮牌ワールドカップで締めくくられた。
 実に10日間にもわたって、フェンシングの国際大会が日本で開催されたのだ。単独開催としては初めての試みであり、五輪を直前に控えたこの時期に開催されるということは、それだけ日本選手にかかる期待の高さが含まれていると言っても過言ではない。

 だが、約90日後にロンドン五輪が迫った今、エースの太田が口にしたのは「自信」ではなく「不安」だった。

強豪の太田対策も強固に

 フェンシング関係者にとって長年の「悲願」であった五輪でのメダル。強化のためにウクライナからプロコーチのオレグ・マチェイチュクを招へいし、国立スポーツ科学センターを拠点にした500日にも及ぶ合宿も行った。2008年8月13日に北京五輪で太田が獲得した銀メダルは、万全の体制を敷いた日本フェンシングチームの成果でもあった。

 あれから4年。メダル獲得以降、太田を、そしてフェンシング界を取り巻く環境はめまぐるしく変化した。
 ワールドカップ、グランプリ、世界選手権など国際大会の結果に伴う獲得ポイントによって決定される世界ランキングで、09年5月に太田は1位に躍り出る。五輪でのメダル獲得に続く史上初の快挙に、フェンシング界の士気も自然に高まりを見せた。

 北京では男子フルーレに絞った強化体制が敷かれたが、ロンドンに向けては男子フルーレだけでなく、女子フルーレ、男女エペ、男女サーブルに外国人コーチをそれぞれ招へいし、日本人指導者をサポートにつける。さらにフィジカル、栄養面だけでなく、情報収集の専門家も加わり、ロンドンでのメダル獲得は「悲願」ではなく「使命」となった。
 
 世界ランク1位となった太田も「自分の選手生活の中で大きな比重を占める大会」と位置づけて臨んだ10年の世界選手権(パリ)では3位。目標としていた優勝を逃しはしたが、日本選手として個人では初めて世界選手権の表彰台に上がり、フェンシングの母国・フランスでも世界のトップランカーとして、堂々の存在感を示した。

 しかし五輪が近づくにつれ、世界の強豪たちもジワジワとその牙をむく。最も得意な場所はどこで、苦手なものは何か。日本対策、太田対策も日を追うごとに強固なものとなり、徹底して弱点を突かれる。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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