モンペリエのアメージング・ストーリー=金満クラブを黙らせた低予算クラブの快進撃
疲労と戦いながら優勝を目指す
優勝の行方は最終節までもつれる可能性が高い。ジラール監督(写真)のさい配が鍵を握りそうだ 【写真:PanoramiC/アフロ】
折りしもモンペリエ女子がソワイヨーに6−0で快勝したその日、チームプレーを取り戻したPSG男子は6−1でソショーを圧倒し、無言の圧力をかけていた。その後モンペリエは1−0で2度勝ち、いまだ首位をキープしてはいるのだが、そのプレーには明らかに疲労が見え始めている。
予算の低いクラブにありがちなことに、モンペリエには豪華な交代要員はいない。09−10シーズンを5位で終えたおかげで、10−11シーズンにヨーロッパリーグに出場した彼らは、さらに国内でリーグ・カップの決勝にも進出したため、シーズン終盤に疲労がどっと出て崩れ、昨季は結局14位に終わった。それにより今季は欧州カップ戦への出場はなく、国内のカップ戦でも比較的早く敗れたために、試合数の多いマルセイユやリヨンよりも、ずっとスタミナが長持ち。ここまで踏みとどまることができていたのだ。
体のキレがなく、ショットの正確さは落ちても、根性を振り絞って34節の対トゥールーズ戦に勝った(1−0)モンペリエは、この勝利で最低でも3位でのCL行きを確実なものとした。しかし来季CLに出れば、層の薄いモンペリエがより早めに疲労に苦しむことになるのは必至。ここに、モンペリエのような予算の低いクラブばかりでなく、フランスのクラブ一般が持つジレンマがある。CL出場となればクラブ幹部は歓喜するのが普通だが、これもあって、CLの話が出ると、ニコラン会長はやや顔を曇らせるのだ。
「もしジルーが来季よそに移籍してしまったら、ベランダとそのほかの既存の選手でCLを戦う。CLのために大枚をはたいて高い選手を買ったり、法外な給料値上げをすることなど、われわれには不可能だ。問題外だ」。3月にこうつぶやいていた会長だが、いまや、外国クラブに目をつけられているのはジルーだけではない。実際、34節の試合会場のそこここに、外国クラブのスカウトやプレーヤー・エージェントの姿が見られた。つまりモンペリエにとっては、強化どころか、主力をキープすること自体が至難の業となりそうなのだ。
そして仮に現メンバー全員をキープできたとしても、多くの大物選手を獲得し、現在建設過程のPSGが、アンチェロッティ監督の目指すコレクティブなサッカーをできるようになった暁には、モンペリエがPSGと張り合い続けるのは難しくなる。つまりこれは、モンペリエがクラブ史上初のリーグ1優勝を遂げるための、またと巡ってこないチャンスなのだ。
ちなみに2部時代のモンペリエには、日本の廣山望が在籍していた。現在女子チームの責任者となったビトン氏はいまだ、折に付け「廣山によろしく言ってくれ」と言う。また1年前の冬の移籍市場では、松井大輔のモンペリエ行きのうわさもあった。結局、松井の故障もあって実現せず、代わりに現在左ウイングのウタカが参入したのだが、このようにモンペリエは、何かと日本とゆかりのあるクラブなのだ。
ここまで来たら優勝してほしい。しかしひとつの黒星で状況は逆転しうる。体力に衰えの見え始めたモンペリエではあるが、頼みの綱は、タイトルのライバルであるPSGとの直接対決はもうなく、残り試合がわずか4だということ、そして典型的モンペリエ流のプレーができなかったここ2試合に、それでも何とか勝ち点3をもぎ取る精神的強さを彼らが見せていることだ。レンヌ、リールという厳しい相手との対戦も残っているが、4試合は、たとえ疲れでよろめいていても、集中力を維持しうる試合数である。
「たぶん勝負は対リール戦、つまり最後から2番目の、37節に懸かると思う」とJ氏はつぶやいた。それから、こうも言い添えた。「でもPSGも、その前にリールと対戦する……」。彼の願いが通じたか、4月29日、PSGはリールに1−2で敗れ、モンペリエのリードは5に広がった。反対にPSGとリールの差は2に縮まり、CLダイレクト・インを目指すリールは、残り試合すべてに勝とうと燃えに燃えている。
サスペンスは最終節まで続くだろう。そしてその結果がなんであれ、モンペリエの今シーズンは成功だった。しかしジラール監督は「シーズンを美しく締めくくりたい」と言う。4月27日の試合後、それはどういう意味かと聞かれたジルーは、ついに、それまでクラブで禁句だったある言葉を口にした。「その意味は――チャンピオンだよ」。