モンペリエのアメージング・ストーリー=金満クラブを黙らせた低予算クラブの快進撃
チームの基盤はユース育成
モンペリエ躍進の原動力となっているベランダ(写真)。たぐいまれなセンスは元フランス代表のピレスにも例えられる 【写真:PanoramiC/アフロ】
繊細なスキル、ビジョン、的確な判断力、そして今、決定力(11ゴール)までを備えるようになった彼は、純粋な才能、センスという面では、おそらくジルーより上。顔立ちの優しい細身のベランダは、174センチと背も高くないのだが、その彼が、チャンスを作り、ジルーにアシストを送り、ジルーが決められなければ自分でも決める。おかげでいまやその株は上昇し、ロベール・ピレスに例えられるまでになった。
モンペリエの良さが全面に出た3月の対マルセイユ戦で、ベランダはジルーのパスをアクロバティックなオーバーヘッドで決めた。実際、マルセイユを3−1と引き離したこのシーンでは、まず右サイドバックのガリー・ボカリーが守備的MFベンジャミン・スタンブリとのワンツーで上がってジルーにパス。そのジルーの右サイドからのクロスを、同時に上がっていたベランダがたたき込むという、絵に描いたような連係により得点が生まれている。
このゴールに気を良くしすぎたか、その翌週にはやや独演に走ってちょっぴり批判されたベランダだったが、そこまでは常に潤滑なチームプレーの貴重な駒となっていた選手である。それもそのはず、このチームにはスタンブリ、レミ・カベラなど、ユース時代から一緒に育ってきた仲間が数人いるのだ。
女子の試合を眺めながら、冒頭のスタッフJ氏は「ベランダは、わたしが育成部門で働いていたころから、ずっとここで育ってきたんだよ。モンペリエは、伝統的に大いに育成に力を入れてきたクラブなんだ。現フランス代表監督のローラン・ブランもモンペリエのユース部門で育ち、ここでプレーしていたんだよ。実際、育成はモンペリエの力の土台だ。スター選手を買う予算を持たないクラブにとって、育成は必須事項なんだよ」と誇らしげに打ち明けた。
リベンジに成功した選手たち
まず攻撃面に目を向けると、たとえば「目標はリーグ1最高のサイドバックになること」という左サイドバックのアンリ・ベディモは、ウイングのジョン・ウタカとオーバーラップしながら、ここまで上がるか、と言いたくなるほど意欲的にサイドを攻め上がる。ジルーかベランダに決めさせるために連係するのが彼らの基本形だが、もともと攻撃的MFというよりFWである前述のウタカ、2部時代からいるスレイマン・カマラの両ウイングも、すきあらばゴールを狙うため、四方八方から危険がわき上がってくるのだ。
一方のディフェンスは、鉄壁とは言えないものの、やはりチームとして守る姿勢で弱みをカバーしている。センターバックのヴィトリーノ・ヒルトン、右サイドのボカリーは、共にちょっぴり能無し扱いされてマルセイユを追われた選手だったが、モンペリエに来て汚名返上。良いときのモンペリエは、4バックが低めの位置できれいに並び、主にその一列前の2ボランチがボール保持者に激しいプレッシングを仕掛けて、こぼれたところをバックがクリアする。この二重の壁で数々の危機をしのいできた彼らなのだが、必要とあれば、ここにFWのジルーや、元リベロだったべランダまでが加勢するのだ。
おかげで今季のモンペリエは、失点数の少なさではリーグ首位タイ(第34節終了時点で31失点とトゥールーズと並んでいる)。もともと守備のほうがいくぶん良かったチームだが、今季は得点数の多さでもPSG、リールに次いで3位と、非常にバランスのとれたチームとなっている。ちなみに警告や退場の数で決まるフェアプレーランキングでは、昨年最悪の20位だった彼ら。しかしここでも、今季は13位と向上している。
言い添えれば、モンペリエはなかなかリクルートのうまいクラブで、いまやバレンシアの選手となった昇格の立役者、アルベルト・コスタ(アルゼンチン)のような無名の外国人選手を安価で連れてきては、成功を収めてきた。今は昨年加入したチリ人の守備的MF、マルコ・エストラダが主力として活躍中だ。