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モンペリエのアメージング・ストーリー
金満クラブを黙らせた低予算クラブの快進撃

優勝の予感に気をもむクラブスタッフ

得点ランキングでトップに立つジルー(右)。チームプレーヤーであり、守備にも貢献する
得点ランキングでトップに立つジルー(右)。チームプレーヤーであり、守備にも貢献する【写真:PanoramiC/アフロ】

 4月22日、フランス南西部ソワイヨーの小さなスタジアムで、隣に座って記録をとっていたモンペリエのスタッフJ氏が、人差し指と中指を交差させながらふとこうつぶやいた。「夢がかなうよう祈っている。チャンピオンズリーグ(CL)行きはほぼ確実だ。しかしリーグタイトルはより難しい……」。指をクロスさせるのは、欧州で願をかけるときによくやる仕草だ。


 目の前では、鮫島彩と宇津木瑠美が所属するモンペリエ女子が、ソワイヨー相手にボカスカとゴールをたたき込んでいたが、彼が言っているのは女子チームのことではなかった。女子リーグの強豪モンペリエは、現在リーグ3位で奮闘しているものの、リヨン、ジュビジーに先んじられ、CL行きに関してはもはや他力本願となっている。反対に男子チームの方は、シーズン前の下馬評を大きく裏切り、現在もなおリーグ1の首位を走っているのだ(第34節終了時点)。


 今季のモンペリエは、パリ・サンジェルマン(PSG)にホームで敗れた8節直後を唯一の例外に、シーズンのほぼ全過程を1位か2位で過ごしている。しかしJ氏のつぶやきがもれたその日には、2位のPSGは2ポイント後ろにぴったりとつけており、3位のリールも尻上がりに調子を上げて、レースは最後までもつれそうな様相を帯びていた。翌週に勝ち点差は5に開くのだが、それでも当の本人たちは、全く安心していない。何よりモンペリエには、シーズンの大半を上位5位以内で過ごしながら最後に失速して14位まで落ちた、昨季の苦い思い出があった。


 それもあってか、当初はチームの快進撃をパリやリヨンなどの金持ちクラブをからかうネタにしていたクラブ幹部も、シーズン大詰めとなり、リーグタイトル獲得が現実味を帯びてくると、急に口数が少なくなった。「まさか本当に優勝?」という思いに、緊張し始めたようなのだ。


 このクラブには、ルイ・ニコランというフランスきっての名物会長がいる。ゴミや廃棄物処理の会社で財をなした、たたき上げ系のニコラン氏は、その毒舌でメディアを沸かせつつ、差別用語とFワード交じりの過激な発言ゆえに、リーグから何度も懲戒処分を受けている怪男児。元ミランのカルロ・アンチェロッティがPSG監督に就任した際にも、「アンチェロッティだ? 笑わせやがる。わたしはアンチェロッティなんかよりローラン・クルビスの方がいいね。いい監督ってのは、大して良くない選手で勝つ者だ……(差別用語が続く)」と真っ先に憎まれ口をたたいた(ちなみにマルセイユ時代の不正で実刑判決を受けたクルビス監督は、モンペリエを1部に昇格させた後、刑期に服するため、現監督レネ・ジラールにバトンを渡している)。


 しかしこのニコラン会長でさえ、まさかの夢の実現を前に、もはや豪快なコメントを吐かなくなった。モンペリエの年間予算は3300万ユーロ(約35億円)で、リーグ1の14位。1億5000万ユーロ(約159億円)のPSGやリヨンの約5分の1であり、ハビエル・パストーレ1人を買う金で、クラブの1年分の経費がまかなえるという節約型クラブだ。それでPSGとタメを張っているというのだから、それだけでもすごいことである。メディアは当然ながらこの対比に飛びつき、ライバル関係を煽ろうとしたが、CLよりフランス・カップの方が良い、と言うニコラン氏は、「最近は、ここまできてすべてがおじゃんになるのでは、という不安で安眠できない。快適ゾーンは4、5位あたりだ」と、珍しく控えめだった。

強さの秘密は『チームプレー』

 モンペリエは、残留が目標だった09−10年は5位、10−11年は最後に落ちたがシーズンの大半をトップグループで過ごした。つまり、彼らの予想を上回る躍進は今に始まったことではないのだが、今季の彼らには、さらに一皮向けた強さがある。その最たる理由は、ほぼ同じメンツで2年目を迎えたおかげで、潤滑なチームプレーができあがったことだった。もちろんそれには、選手に行使すべき戦術とプレースタイルをたたき込んだ、ジラール監督の手腕も関係している。


 昨年のリールの活躍で盛んに聞かれるようになった『コレクティブ』という言葉は、今季のモンペリエの躍進で、ますますフランスのモットーとなりつつある。選手1人ひとりを取ればほぼ“無名”の者たちばかり。しかしその皆がチームとして一体となってプレーすることで、あらがいがたき力が生まれる。おかげでその彼らもいまや無名ではなくなり、イングランドの有名クラブなどから目をつけられるまでになった。


 実際、この初春にモンペリエがPSGとの一騎打ち状態に入ったとき、どちらが優勝すると思うか、という問いを投げられた対戦相手の監督たちは、こぞって「モンペリエ」と答えている。それは、無尽蔵の富を持たない小さなクラブの健闘に、監督たちが好感を抱いているという理由からだけではない。監督たちはそろって、「よりコレクティブなサッカーをしているから」を、選択の理由に挙げた。個々の才能では上でも、やや独演に走る悪いくせをまだ治しきれていないPSGと、徹底してチームプレーを貫くモンペリエは、確かに対照的だった。


 昨季までは、どちらかというと根性が売りの、フィジカル的にラフなチームの烙印(らくいん)を押されていたモンペリエが、今季はしっかりしたオーガニゼーションとプレーの質で、サッカー関係者たちからの敬意を勝ち取った。得失点差でも今季1位のモンペリエは、いまや、攻撃的な躍動感と統制を兼ね備えたチームと見なされている。そのアタックの要は、オリビエ・ジルー、ユナス・ベランダという2人の攻撃手たちだ。


 2年前まで2部のトゥールでプレーしていたFWのジルーは、単なるロングボールのターゲットマンではない。192センチと長身ながら動きも良い彼は、足でもヘッドでも得点でき、ディフェンスにも猛然と戻る典型的チームプレーヤーであり、その上で得点王ランキングのトップにつけている(20ゴール)。おかげでフランス代表にも呼ばれるようになったことは、前回のコラムでも述べたとおり。しかしジルーに勝るとも劣らぬキーマンとなっているのが、今季に入りぐっと力を伸ばした22歳のベランダなのだ。

木村かや子

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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