西武・栗山巧が一流に成長した理由=プロ入り後に磨きをかけた“野球脳”

中島大輔

論理的に考え、言語能力に優れる栗山

今季からキャプテンに就任した栗山。積極的な打撃でチームを引っ張っている 【写真は共同】

 打撃の積極性と淡白さは、コインの表裏のような関係にある。4月16日に行われた日本ハム戦の1回裏、埼玉西武ライオンズの先頭打者の栗山巧は初球をセンター前ヒットとした打席について、「紙一重だった」と表現した。
「ヒットになったから良かったです。逆に、アウトになっていたら(早打ちということになる)。でも、僕らはそういう世界で勝負していますから」

 初球を打って結果が出れば積極的、アウトになれば淡白と言われるが、その差はどこにあるのか。土井正博ヘッド兼打撃コーチはこう説明する。
「積極性を求めることと、淡白さは違う。要は、状況を判断できるか。ピッチャーに1球放らせる余裕がある選手もいれば、カウントを追い込まれてしまうと考える選手もいる。そこら辺が栗山はうまい。積極的にも振っていけるし、フルカウントまで追い込まれてから粘ってヒットにすることもできる。巧打者ですよね」

 栗山は、極めて“野球脳”の高い選手だ。論理的に考えられ、言語感覚も優れている。ある雑誌の企画で「強くボールをたたく」ことと「思い切り振る」ことの違いについてたずねた際には、こんな説明をしてくれた。
「思い切り振ると言ったら、ボールにコンタクトしていないじゃないですか。ボールはこの辺に来るだろうから、思い切り振れ、と。強くたたくと言うのは、ここに来たボールに対して強くたたきにいくんですよ。確実に、正確に、ここだというところで強くたたきにいく。思い切り振るって言ったら、空振りでもいいのかというイメージ」

 プロのレベルで言えば、栗山は飛び抜けたパワーやスピードを備えているわけではない。それでも一流選手の仲間入りを果たせたのは、段階を踏んで考え、自らをレベルアップさせてきたからだ。

プロで生きていくために打撃スタイルを変更

 24年間の現役生活で世界記録の533犠打を記録し、現在は巨人の2軍を率いる川相昌弘が、若手がプロで成功するために必要な心構えを話してくれたことがある。
「一番大事なのは、自分はどういう選手になりたいのかを考えることです。1軍に上がってレギュラーをつかむためには、今、何をするべきかを考えないといけない」
 2年生からクリーンアップを任された育英高時代の栗山は、プルヒッターだった。当時を振り返り、「ホントに技術がなかったので、スイングスピードで飛ばしていた」という。

 01年ドラフト4巡目で西武に入団し、すぐに壁にブチ当たった。プロの世界で生きていくため、打撃スタイルの変更を迫られた。
「バーンと振っても当たらないので、まずはバットに当てなければいけないというところから始まりました。2軍のピッチャーでもフォークを投げる人がいれば、緩急を使える人もいます。何とか1本打たないと、ファームでも試合に出られない。打率を上げないことには話にならない。プロに入ってくれば外国人選手をはじめ、本物の長距離バッターがいる。まずはヒットを打たなあかんというところで、頭の中を切り替えたというより、自然と、当たり前のように変わっていきました」

 1軍で定位置を奪うことを目標に設定し、まずは単打を打つ技術を磨いた。プロ入り4年目の05年に1軍定着を果たし、84試合に出場する。08年にはリーグ最多の167安打でチームの日本一に貢献した。09年、打率が前年から5分も低い2割6分7厘に終わると、翌年は「三振を減らしてフォアボールを増やす」ことを目標に掲げる。同時に「ヒットになる確率が高いから」と逆方向へ強くたたく打撃を意識し、打率3割1分を記録した。この年から2シーズン連続でフルイニング出場を果たしている。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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