プロ選手育成へ、プレミアリーグが果たす役割=京都サンガU−18・本田将也監督インタビュー

元川悦子

プレミアリーグの利点と課題について、京都U−18・本田監督に語ってもらった 【元川悦子】

 2011年度から東日本と西日本に分かれ、1年間かけてホーム&アウエーでレベルアップを図る形式にリニューアルされた高円宮杯U−18サッカーリーグ2012プレミアリーグ。その2年目の戦いが4月15日からいよいよスタートする。初年度はチャンピオンシップでサンフレッチェ広島ユースが優勝。同大会に出場したチームの選手が数多くトップ昇格を果たすなど、タレント育成には確かに役立ったといえる。しかし一方では、高校勢の苦戦が顕著だったことから「このままでは高校チームがいなくなる」と不安視する声が高まったり、「協会7割・各チーム3割」という移動費負担に対して不満が出てくるなど、問題点もいくつか見えてきた。

 昨年1年間、プレミアリーグを戦った指導者はこの大会の現状と今後をどうとらえているのか。やはりJユースと高校側では見えるものも違ってくるだろう。そこで今回は、2011年の西日本でサンフレッチェ広島ユースに次ぐ2位に入った京都サンガU−18の本田将也監督に、Jユース側の視点から見た大会の収穫と課題について語ってもらった。

今は最高の環境が整っている

――プレミアリーグを1年間戦ってみて、まず収穫から挙げていただけますか?

 プレミアリーグのホーム&アウエー方式の年間リーグというのは、トップがやっているのと一番近い形ですよね。日本クラブユース選手権は夏季の一カ所集中開催だし、Jユースカップも予選リーグからトーナメントになる形なので、1年間のリーグ戦というのは選手もチームも真の実力が問われると思うし、成長する大きなチャンスになっていますね。

――京都では昨年、久保裕也や三根和起、原川力ら6人がトップに昇格しました

 久保は昨年のプレミアが始まる前にトップに合流したんで、その穴を1年だった田村亮介という選手が埋めました。彼のような若い選手が2種最高峰のリーグを経験できたし、チームにとっていい影響がありましたね。

――京都の場合、選手の学業とサッカーの両立をどのように図っているんですか?

『スカラーアスリートプロジェクト』というのが2006年にスタートして、U−18の選手は今、全員寮に入って立命館宇治高校に通っています。寮と学校、サンガタウンがすべて15分圏内で移動できるので、普通に朝から学校へ行き、午後も授業を受けて16時半くらいから練習を始められます。18時半ころに終了した後はすぐ寮に戻り、カロリー計算された食事を30分以内に取ることができますね。さらに立命館宇治高校に特別に考慮してもらって、サンガの選手は春休みに海外研修を実施しています。今年の新3年生もより個人のレベルアップにフォーカスする狙いで、ケルン、トゥエンテ、フィテッセに3人ずつ行かせました。

 費用に関しては、寮費を京セラさんに補助していただき、学業面は立命館学園さんにお願いして、サッカーの費用はサンガが負担している形です。プレミアの遠征費も公式戦なのでクラブが見ています。海外研修は修学旅行という位置づけなので、親御さんに積み立てていただいたお金で行ってもらってますが、選手の経済的負担が極力少なくなるような工夫をしています。

 角田誠(現ベガルタ仙台)がアカデミーにいたころは、こういうシステムは全くなかった。練習も夜に行わなければいけなかったですし、人工芝のグラウンドもなくて雨が降れば練習中止にせざるを得なかった。家に帰るのも深夜で勉強もできなかったでしょう。今は最高の環境が整っていると思いますよ。

“プロの光と影”を示すことも大きな財産

――こうした環境整備が、宮吉拓実や久保ら傑出したタレントを生み出す原動力になったんですね

 確かにそういう側面はあります。この2年間で11人の選手がトップに上がりましたからね。ただ、これは普通に考えると異常な数字。今後は一段と厳しい篩(ふるい)にかけられるし、人間的にも厳しい目で見られる。僕らも今までは「トップに上げること」が目標だったけど、「トップの中心で活躍できる選手」を育成していかないと、と思っています。
 選手たちにも「お前らはこれだけのことをやってもらってる。じゃあ何で恩を返すんや?」と常に問いかけてます。海外へ行って移籍金をクラブに還元するのも1つの方法でしょうけど、一生懸命プレーして寮でも学校でもいい振る舞いをして後輩の見本になることで恩を返すことはできる。これだけの環境をそろえてもらっているからこそ、周りへの恩返し」がすごく大事だと思うんですよね。

 実際、久保裕也にしても、昨年はJ2で10点取って注目され、日本代表にも選ばれましたけど、最近はスタートから試合に出られなかったり、昨季も13試合連続ノーゴールというのがありました。そんな“プロの光と影”を先輩が後輩に示すこともクラブにとっての大きな財産。サンガの伝統や歴史になっていくでしょう。僕はそういうものの重要性や、人間教育や感謝の大切さを高体連(全国高等学校体育連盟)の先生方からいつも教えてもらっているんです。

――Jユースと高校が混在したプレミアリーグ参戦は、クラブ愛や伝統、人間教育などの意識を高めるいい機会になりますね

 そうですね。実際、高体連のチームはものすごい一体感を持っていますからね。僕らJユースは30人くらいしか選手がいませんけど、高体連は100人近い選手がいて、試合に出てる、出てないに関係なくチーム一丸となってる。OBや保護者もいますし、アウエー戦に行くとメチャクチャ応援がすごい。人間としての土台を先生方が本当に大切にされているんだなと頭が下がります。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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