「小粒な」フランス代表に求められるもの=ドイツ戦で急浮上したドゥビュシーとジルー

木村かや子

ドイツ戦で輝いていたのはナスリでもリベリーでもなく……

ドイツ戦で先制ゴールを決めたジルー。与えられたチャンスを見事生かし、アピールに成功した 【Bongarts/Getty Images】

 この初春に行われたドイツ対フランスの国際親善試合の際に、他国メディアの報道の中で「フランスは、ナスリ、リベリーを中心としたチームで、ドイツを2−1で破り……」といった感じの簡略な記事をよく目にした。しかし現実には、これほど実際に起こったことに反する表現はなかったのである。「才能はうそをつかない」の格言を誰よりも信じ、自身も天才肌であるミッシェル・プラティニは、試合に先立ち「現代表には、ナスリとリベリーという才能ある選手がいるが、残りは小粒」と言っていた。上記のような記事を書いた者は、この言葉に左右されたか、あるいは実際に試合を見なかったに違いない。

 ドイツが主力を5〜6人欠いていたとはいえ、予想に反してフランスが勝利を収めたこの試合の後、フランスのメディアは、興奮を押し殺しながら次のように書いている。

「まだ世界規模での強さはないものの、今回のフランス代表は、プレーの方法という意味でも、姿勢でも、チームとしてプレーできていた。もしかしたら、本当に変わるべきときなのだと気付いたのかもしれない」

 しかし、理論的には間違いなくチームの中心であるはずのサミール・ナスリとフランク・リベリーは、この試合で失望を誘った者の一角だった。代表に吉報をもたらす好プレーを見せた最たる選手は、マチュー・ドゥビュシーとオリビエ・ジルーという、おそらく国際レベルでは無名の2人だったのである。

 レキップ紙の採点を見ると、トップがドゥビュシーとジルーで共に8(10点満点)。GKウゴ・ロリスとマチュー・バルブエナが7、フィリップ・メクセスとアディル・ラミのセンターバック・ペア、ボランチのヨアン・カバイェが6。エリック・アビダル、ジェレミー・メネズ、ナスリが5。リベリーとヤン・エムビラが4で最低だった。リーグ戦でのレキップの採点には、時々納得いかないこともあるが、今回の採点は現実をほぼ正確に映しているように思う。

主力の故障でチャンスを得たドゥビュシーとジルー

 この試合の最優秀選手に選ばれたドゥビュシーは、右サイドバックのバカリー・サニャの故障ゆえにスタメンに抜てきされた、リール所属の26歳。ローラン・ブランが監督になった直後の対ノルウェー戦(2010年)で初招集されたが、その際には出番はなく、デビュー戦は昨年10月のユーロ予選、対アルバニア戦(3−0)と、ごく最近のことだった。

 一方、やはりカリム・ベンゼマの故障のおかげで先発起用となったジルーも、初招集は昨年11月の対米国戦と、最も新参者だ。エレガントなアタッカーではないものの、ヘッドでも足でも決める真の点取り屋で、192センチと長身ながら動きも悪くない。新監督となったブランが長身のアタッカーを探していたおととしあたりから、すでにメディアや地元ファンの間では「ジルーを代表に!」という声も上がっていたのだが、所属クラブのモンペリエが当時1部昇格して間もなく、やや地味だったため、あまり真剣に受け止められていなかった。彼の招集には、モンペリエの今季の予想外の台頭が、大きな一役を買っていたはずだ。

 有名選手はおらずとも、よく油のさされた潤滑なチームプレーを武器に戦うモンペリエは、今季の大半を1位か2位で過ごしており、いずれ崩れるという当初の予想とは裏腹に、現在もリーグ1の首位につけている。そして2年半前まで2部でプレーしていたジルーは、この強いモンペリエのエースストライカーとして、得点王ランキングで現在トップ(18ゴール)を走る。リーグのトップスコアラーに代表でのチャンスが与えられるのは、いわば当然のことだろう。とはいえジルーの場合、ベンゼマのようにごく若くして才能に太鼓判を押された選手でなかっただけに、国際舞台でどこまで通用するかは未知数だった。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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