エースの木村沙織を支えた東レ優勝の影の立役者=女子バレー

田中夕子

優勝の喜びを分かち合った木村沙織と高田ありさ

優勝トロフィーを掲げる荒木絵里香の後ろ(右隣)で喜ぶ高田ありさ。左端は木村沙織 【坂本清】

 2シーズンぶりに手にした“金メダル”。
 菅野幸一郎監督から「リーダーとしてコントロールしてくれた。いてもらわないと困る選手」と称された木村沙織は、高田ありさと2人で、喜びを分かち合った。東レアローズは3月24日、V・プレミアリーグファイナルの優勝決定戦で、久光製薬スプリングスをストレートで下し、4度目の優勝を手にした。

 同期入部の25歳。
 東レに入社する前から全日本に選出された木村に対し、同じウイングスパイカーの高田は外国人選手が来ればレギュラーの座を失い、これまでは控えに甘んじることが常だった。
 
 オランダ代表のマノン・フリールが2011年に加入し、セッター対角のポジションにはフリールが入った。シーズン前に描いた戦略図では、攻撃力のある迫田さおりをレフトに固定し、これまで一度も取り組んだことのないサーブレシーブに挑戦させるはずだった。
 しかし、フリールはシーズン前のケガで調整が遅れ、当初の予定にズレが生じた。急きょ、菅野監督は迫田、木村の攻撃力を生かすことを優先し、木村の対角にサーブレシーブや守備面で安定している高田を入れる布陣で臨んだ。

「今までは全日本組が戻ってきて、外人が来れば自分のポジションがなくなる。モチベーションを保つのが大変でした。でもやっと、チャンスをもらえた。頑張らなきゃ、と思って、とにかく必死でした」

 2011−12シーズンが始まると、東レは12月の皇后杯で優勝を飾り、リーグ戦も着実に勝ち星を重ねる。高田はフリールの復帰後もレギュラーの座を受け渡すことなく、チームも高田自身も順調に歩んでいるかと思われた。

弱点の克服

 しかし、試合数が増えるとともにデータも増える。木村、荒木絵里香、フリールが後衛に下がり、前衛にセッターの中道瞳、ミドルブロッカーの宮田由佳里が入って攻撃が2枚になるローテーション時、相手チームは決まってサーブで高田を狙い、プレッシャーをかけてきた。返球が崩れれば中道のトスもサイドに集まりがちになり、2枚、3枚とブロックがそろったところから攻撃しなければならなくなる。

 終盤になるにつれ、高田がブロックに捕まるケースも増えた。チームの弱点となり得るかもしれないポイントをどう克服するか。エースとして、木村も責任を感じていた。
「ありさを助けたい。守備で支えるだけでなく、攻撃でも、もっと自分がどうにかしなきゃと考えるようになりました」

 木村や迫田ほどの攻撃力はない高田の負担を減らすべく、打開策として打ち出されたのがコンビの中にバックアタックを積極的に取り入れることだった。
 レギュラーラウンドの当初は、全日本で木村や迫田が取り組んできた速いトスに対応してバックアタックを打つ練習を積極的にしてきたが、速さを求めるあまり、トスが低くなる。打点までの到達時間は早いように思えるが、低い位置で、ましてやスピードのあるトスを捕えるためには打つポイントはおのずと限られ、ブロックにかかったり、ミスにつながることもある。

「ある程度の高さがないと、ブロックが見えず、打つ位置、場所も限られてしまう。試合の中でいろいろ試した結果、速さばかりにこだわるのではなく、今までと同じように高さのあるトスを上げてもらって、しっかりブロックやコースを見て打つ形に戻しました」(木村)

 新たな試みは、奏功した。木村のバックアタックが攻撃の選択肢に加わったことで高田も「2枚ではなく(木村、迫田の)バックアタックも含めた4枚攻撃だと思えるようになった」と言うように、ウイークポイントという意識は消えた。

 さらにもう1つ。東レでのリーグ制覇のみならず、ロンドン五輪出場、五輪でのメダル獲得を目指す木村にとっても、自身のバックアタックが確立したことは、大きな収穫となったことは間違いない。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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