花巻東・大谷を攻略した大阪桐蔭、狙い通りの後半勝負

松倉雄太

5回まで無失点に先制弾と序盤に躍動した大谷

うつむく花巻東・大谷と打席に向かう大阪桐蔭・藤浪。注目の好投手対決は後半に明暗が分かれた 【写真は共同】

 投球回数8回3分の2、球数173、奪三振11、四死球11、失点9。
 花巻東・大谷翔平(3年)の投球内容である。2万7000人の観衆を集め注目された試合は、後半に大谷を攻略した大阪桐蔭に軍配が上がった。

 「調子は良くはなく、コントロールができなかった。自分のせいで……」と肩を落とした大谷。
 それでも悪いなりのピッチングで5回までは無失点。四死球こそあったが、要所では威力十分の球を繰り出すなど、相手打線を“線”にさせなかった。

 試合は2回に大谷の一発で花巻東が先制。4回にはタイムリーでもう1点を追加。平凡な内野ゴロをヒットにするなど、左打者の足の速さで大阪桐蔭内野陣にプレッシャーをかけていた。前半は完全に花巻東の流れだった。
 ただ、大阪桐蔭サイドでは、「大谷投手のボールが見えていた」(水本弦主将=3年)と手応えを感じつつある前半だったのである。

大阪桐蔭・水本主将「大谷投手の球数は頭に入っていた」

 スコアブックを見ると、大阪桐蔭サイドに勝機を感じるのは大谷の球数。5回で85球に上っていた。大阪桐蔭の藤浪晋太郎(3年)も5回で84球と数ではほぼ互角。だが、決定的な違いは、競った展開での後半勝負にある。
 故障の影響で秋はまったく投げなかった大谷。この春も投手として復帰こそしたが、完投は一度もなかった。何よりチームとして、「4番・投手」大谷の状態で一度も公式戦で戦っていないのである。練習試合と公式戦はまるで違う。それだけにこの事実が相手に与える影響は大きい。

 大阪桐蔭の水本主将は、「大谷投手の球数は頭に入っていた」と粘って後半勝負ならばと捉えている。
 西谷浩一監督も「大谷投手の秋のデータがまったくなく、ウチとしても情報があまり手に入らなかった。だから暗示をかけていたんです。秋に一度も投げてなく、公式戦の完投も一年近くしていない投手に対してつけ込めるとしたら……」と、やはり後半勝負に勝機を見い出していた。

大阪桐蔭・藤浪は12奪三振 後半に花巻東打線を寄せ付けず

 大阪桐蔭サイドの思惑は6回に実った。先頭の3番・水本が2ストライクから粘って四球を選ぶ。ここから内野ゴロの間に1点を返すと、さらに四球でチャンスを広げ、8番・笠松悠哉(2年)が逆転の2点タイムリー二塁打を放った。
 大谷に見えた一瞬のスキをついた大阪桐蔭。球数は6回途中で100球を超え、大谷の球威はガクンと落ちた。7回には4番・田端良基(3年)に2ランが飛び出し、差はさらに広がる。

 逆に後半に花巻東打線を寄せ付けなかったのは藤浪。8安打を喫したものの、12三振を奪い2失点。「チームが勝てれば投球内容は悪くても良い」と大会前に話していた通りの結果になった。
 終わってみれば9対2で大阪桐蔭が勝った。ただ、今日のゲームがこうなっただけで、大谷としても悲観する内容ではない。本人とチーム全体が我慢して故障の回復を優先させた秋。そして173球を投じた春の甲子園は必ず今後の糧となるだろう。誰の目にもチームは発展途上。大谷が完全復帰したこれから、成熟度を増していけば良い。そしてもし、夏に再び相まみえたならば、違った戦いができるだろう。

<了>
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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