大阪桐蔭・藤浪、“すごい”投球ではなく“勝てる”投球を目指して=自然体で臨む甲子園の初マウンド

松倉雄太

冬場は股関節を柔らかくする練習に取り組み、投球に安定感が増した藤浪 【写真は共同】

 3月15日に行われた抽選会。壇上の組み合わせボードに、『大阪桐蔭』と『花巻東』のプレートが並んだ瞬間、会場は大きなどよめきに包まれた。

 藤浪晋太郎と大谷翔平(ともに3年)の『ダルビッシュ二世対決』

 そんな見出しが出るようになり、いやが上にも注目を集める立場となった。
「注目していただけるのはありがたいですし、大谷君を意識しないことはない。でも僕と大谷君だけが戦うのではなく、大阪桐蔭と花巻東の戦い」と、当の藤浪はあくまでも自然体だ。

幾度も流した悔し涙

 身長197センチは今大会登録選手の中で最も大きい。昨秋から幾度となく大谷と並び評され、愛工大名電の左腕・濱田達郎(3年)とともに『高校ビッグ3』と呼ばれてきた藤浪。でも、入学後は甲子園が遠い存在だった。
 1年夏は大阪大会3回戦、主戦格で投げるようになった1年秋は近畿大会1回戦で敗れ、エースナンバーをつかんだ2年夏も大阪大会決勝で敗れた。昨秋の近畿大会も初戦で関西学院(兵庫)を2安打完封しながら、ベスト8で天理(奈良)に打ち込まれ、選抜当確と言われるベスト4を決めきれなかった。文字通りあと一歩で泣き続けてきたのである。

 素質の高さに注目するプロのスカウトも「はまった時は凄いが、良い時と悪い時がはっきりしている」と現状の藤浪を分析している。恵まれた体から繰り出される140キロを超える直球、角度のある球。素人の目にも素晴らしい素質の持ち主であることは間違いない。しかし、その素質を100%生かしきれずにきた。
 だが、悔し涙を幾度も流してきたことが、藤浪自身を一回りも二回りも大きくしてきたのも事実だ。周囲の大谷に関する質問にも、「彼にはセンスがあるが、自分にはそこまではない」とリスペクトした発言をできるようになったのも、そうしたこれまでの積み重ねがあったからだろう。

「大谷君に投球内容で負けても、チームが勝てればそれで良い」

 この冬場は、股関節を柔らかくすることに重点を置き、ウエートや柔軟体操、さらには相撲の股割りなどあらゆることに力を入れてきた。それと同時にすごい投球ではなく、勝てる投球を目指して、メリハリのある投球にも力を注いだ。
 成果は3月の練習試合でも表れてきている。解禁日の8日に行われた桜宮(大阪)戦では7回1失点。今季初完投だった16日の市立尼崎(兵庫)戦は3失点を喫したが、中盤以降はしっかりと修正した。投球にメリハリをつけ、失点はしても負けない。傍目にはもの足りないかもしれないが、これが投手にとって最も必要なことであろう。
 だからこそ大谷と投げ合うであろう、本番でもスピードにのみこだわることはしない。
 「大谷君に投球内容で負けても、チームが勝てればそれで良い。打者の大谷君に対しても、乗せてしまわないように気をつけたいが、例えば2死走者無しからのシングルヒットはOKくらいの気持ちでいます」と言葉を選びながら話してくれた。

 近そうで遠かった甲子園のマウンド。17日の公式練習が雨で室内になり、またしてもマウンドはお預けになった。
『楽しみは本番で』という目で一端後にした甲子園。開幕日の21日、あらためてマウンドに上がる。大谷だけでなく、花巻東打線に対して……。

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント