開花し始めたアルゼンチン代表のメッシ

メッシのハットトリックをもたらした2つの変化

スイスとの親善試合で代表戦初のハットトリックを達成したメッシ。今や代表の絶対的なリーダーとなっている 【写真:AP/アフロ】

 何かが大きく変わったわけではない。だが、アルゼンチン代表にとっては非常にうれしいニュースがあった。2月29日に行われたスイスとの親善試合で、アレハンドロ・サベーラ監督がようやく、リオネル・メッシの才能を生かせる形を見いだし始めたのだ。この試合でアルゼンチンは3−1と快勝し、メッシは代表戦で初めてハットトリックを達成した。

 試合後の会見でサベーラは、メッシを生かすために意識した2つの興味深い変化を説明した。1つは、中盤まで下がってボールをさばく役割からメッシを解放すること。中盤まで下がった後に、ゴール前まで長い距離を走るプレーを繰り返すと、多大な消耗を強いられるからだ。

 そしてもう1つは、そのような状況を避けるべく、敵陣の高い位置からプレスをかけること。そうすることで、メッシに近い位置で相手からボールを奪えると同時に、プレスをかけるべくポジションを押し上げた選手たちは、ボール奪取後にパスの受け手にもなる。それはメッシのチャンスメークから、ほかの選手がフィニッシュに絡むプレーを多くもたらしている、バルセロナの守備と同じ考え方である。

 バルセロナとアルゼンチン代表の間にある大きな差は、プレー哲学と選手の違いにある。アルゼンチンにはシャビ・エルナンデスやアンドレス・イニエスタ、セスク・ファブレガス、セルヒオ・ブスケツのような選手はいない。ゆえにサベーラは、バルセロナのように最終ラインからゲームを組み立てることは難しいと認めた上で、彼らがボールを失った後に行うプレスの方法をチームに取り入れたのだ。

さらなるレベルアップが期待できる

 サベーラはこの親善試合で、ほかにもいくつかの収穫を得た。マンチェスター・シティで輝きを放っているセルヒオ・アグエロは、自身がメッシの理想的なパートナーであることを証明し、ゴンサロ・イグアインをベンチに追いやった。また若く高さがあり、フィジカルも強いエセキエル・ガライとフェデリコ・フェルナンデスのセンターバックコンビは大きな可能性を感じさせた。

 中盤は創造性に欠けるものの、両サイドのホセ・ソサとマキシ・ロドリゲスは献身的な守備で相手のアタッカー(特に最近バイエルンと契約したシェルダン・シャキリ)を抑え込んだ。ボランチのハビエル・マスチェラーノ(バルセロナではセンターバックでのプレーが多いため、中盤でのプレー感覚が鈍っている印象を与えた)とロドリゴ・ブラニャ(エストゥディアンテス)は彼らをよくサポートしていた。

 だが負傷離脱中のアンヘル・ディ・マリアの不在は、中盤と前線の間で創造性を発揮するハビエル・パストーレ、事故で半年の離脱を強いられたエベル・バネガの欠場とともに、特に攻撃面で影響を感じさせた。それでも、これだけ多くの欠場者を抱えながらチームとしての機能に改善が見られたということは、主力選手がそろった際にはさらなるレベルアップが見込めると言うこともできる。そこには、一度は代表からの引退を明言したボカ・ジュニアーズのスター、フアン・ロマン・リケルメの名が加わる可能性もある。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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