伏兵・山本が一気に飛躍 「やってきた練習に自信がある」=びわ湖毎日マラソン

中尾義理

山本は佐川急便の中野監督も認める練習好き。日ごろの努力が大一番で実った 【写真:杉本哲大/アフロスポーツ】

 ロンドン五輪の日本男子マラソン代表をめぐる最終選考レース・びわ湖毎日マラソン。降りしきる冷たい雨も、選手たちの五輪への熱情まで冷ますことはできず、終盤に劇的な見せ場が連続した。決定的場面の訪れは競技場内のトラック。残り400メートルで、一般参加の山本亮(佐川急便)が、昨夏の世界選手権10位の中本健太郎(安川電機)を逆転し、2時間8分44秒の自己最高タイムで日本人トップの4位に。五輪代表を確定的にした。優勝は宮城・仙台育英高校出身で愛知製鋼所属のサムエル・ドゥング(ケニア)。32キロ過ぎから独走し、2時間7分4秒で初マラソンVを飾った。

二転三転の日本人トップ争い

 1週間前の東京マラソンで、藤原新(東京陸協)が2時間7分48秒で日本人トップの2位に入り、日本人2番手の前田和浩(九電工)が2時間8分38秒をマーク。びわ湖でアピールするには「2時間9分未満で日本人トップ」が一つの目安となった。その中心選手は、昨夏の世界選手権7位入賞の堀端宏行(旭化成)と、同じく世界経験を積んで自信を得た中本だというのが戦前の予想だった。

 ペースメーカーは1キロ3分の設定から少し遅れたが、20キロを1時間0分23秒で通過。40人以上の大集団の前方に堀端、中ほどに中本や昨年12月の福岡国際4位で選考レースに再チャレンジする今井正人(トヨタ自動車九州)、今年の箱根駅伝2区区間賞の出岐雄大(青山学院大3年)らがおり、山本は一歩下がった位置につけていた。
 レースが動いたのはペースメーカーが外れた25キロ地点。海外勢が流れを変えた。日本人選手の対応は二分した。堀端と出岐は果敢に食らい付き、中本や山本らは2時間7分台を狙える好ペースということもあってリズムをキープ。結果的にこの選択が明暗を分けることになった。

 30キロを過ぎると、スタミナと粘りが武器の堀端が日本人トップを独走。表情はゆがむが、前回も同じようにもがきながら日本人トップとなっているだけに中本ら後方からの追い上げは難しいかと思われた。しかし、このレースに懸かっているのは4年に1度の五輪。選手個々にプレッシャーもあれば、野心もある。35キロから中本が堀口貴史(Honda)とともに出岐をかわし、堀端に迫り始めた。
 スタミナ自慢の堀端だったが、前半の給水ミスの影響か、あるいは雨が体温を奪ったのか、35キロを過ぎると目に見えて推進力が低下。37.9キロ、とうとう中本が堀端をとらえた。

 だが今回のびわ湖はこれで決まらない。一度は中本と堀口らの集団から離された山本が「マラソンは余裕があっても苦しい場面がくる。そこでしがみつけば楽になるときがくる。五輪、五輪」と念じながら余力を振り絞る。39.3キロで堀端を、39.6キロで堀口を抜き、中本にみるみる迫った。40キロ地点で9秒差、残り1.4キロで4秒差、残り600メートルで2秒差。そして、残り400メートルで山本が力を込めた足取りで逆転。中本にやり返す体力は残されていなかった。

1/2ページ

著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント