新天地・ケルンで苦境が続くチョン・テセ=日本育ちのストライカーの可能性を示すことができるのか!?

元川悦子

1部でのゴール量産には香川のような冷静さが必要

試合中、アップをしながら出番を待つチョン・テセ。短いであろう出場時間で結果を出すことができるか 【写真:picture alliance/アフロ】

 今のケルンの基本布陣は4−4−2。2トップはポストタイプとウイングタイプの組み合わせになっている。ウイングタイプのところは、もともとサイドアタッカーが本職のスラブォミール・ぺシュコが陣取ることが多いが、ここにチョン・テセを入れてツインタワーのような形にすることも十分考えられる。しかし、ストール・ソルバッケン監督は現時点で新たなオプション導入は考えていない様子。練習でも試してはいないようだ。

 となると、チョン・テセは2人のビッグライバルに真っ向から立ち向かっていくしかない。そのためには、もっと積極的に周囲とコミュニケーションを取り、新天地になじんでいく必要がある。彼はすでにドイツ語をマスターしており、指揮官や仲間との会話は全く問題ないレベルにいる。そのアドバンテージをフィンケも買って白羽の矢を立てた。その武器を最大限に生かしたいところだ。

「言葉はコミュニケーションのメインじゃないんですよ。肩をたたくだけでも、名前呼び合うだけでもコミュニケーションは図れるから。実際、今のウチにドイツ語をしゃべれる外国人が何人いるかっていったら1人か2人だけ。ドイツ語をしゃべれないのに、ブラジル人のペドロ・ジェロメルがキャプテンやってるくらいですよ。でもおれは、言葉のことを言い訳にされたくなかった。しゃべれなくても結果を出せば問題ないけど、しゃべれないやつは試合に出られなくなったら批判される。それが海外の現実だし、そういうのは絶対に嫌ですからね」

 それだけの自覚を持つチョン・テセは、意思疎通の面では世界基準を大きくクリアしている。あとはピッチ上でのパフォーマンスだけだ。彼の身体的強さ、体を張ってターゲットになるプレーは問題ない。となると、残された課題はゴールしかない。FWは点を取ってナンボ。それは世界共通の条件である。

 得点という部分で目下、チョン・テセが注目しているのは、同じ日本育ちの香川真司(ドルトムント)だ。ドイツ2シーズン目を迎えた今季、すでにリーグ戦で7ゴール(2月20日時点)を挙げ、ドルトムント2連覇に向かってひた走る小柄なアタッカーの活躍は、彼にとっても大いに学ぶところがあるという。

「香川は別世界。もう全然違います。彼は日本人の典型的なプレーヤーかもしれないけど、その中でも異質でしょ。右でも左でもドリブルできるし、トップスピードでボールを持てるし、トラップもうまいし、シュートにも長けてる。特に際立っているのが『ゴール前での冷静さ』ですよね。ペナルティーエリアに入ってから相手を抜く余裕があるじゃないですか。受けたボールをポンとサイドキックで流し込むようなプレーを見てると、すごいなと思います」

 ブンデスリーガ1部になれば、対峙(たいじ)するDFのプレッシャーはより厳しくなる。ボーフムでの1年半で通算14得点をマークしたチョン・テセだが、ケルンで出場機会を得られたとしても、同じ実績を残せるとは限らない。「おれは強さやスピードなどが平均的にそろった選手。テクニックは日本人選手ほどではないけど」と本人は自己分析しているが、スキルをさらに上げ、どんな状況でも冷静にゴールに向かえるような判断力と嗅覚(きゅうかく)を磨かなければ、1部でのゴール量産は難しい。

3月にはエースが復帰、短い出場時間で結果を出せるか

 3月になればポドルスキが復帰する見通しであるだけに、チョン・テセのチャンスは一段と狭まるだろう。彼自身も「15分もらうのは厳しい。5分か10分、そのくらいですね」と非常に短い出場時間での勝負になることを覚悟している。その中でもゴールを奪うことが、先の見えない苦境からはい上がる唯一の道だ。

「限られた時間で結果を出すには、とにかく気持ち。いかに気持ち込めてゴールに突っ込んでくか。それだけですね。悠長に流れに乗るんじゃなくて、純粋にゴールに向かって走って動き出すっていうのを意識してやるしかないでしょう。もう行くしかないです」

 日本で育ち、海外に渡って大成功を収めたFWはこれまで皆無に近い。中田英寿(元ローマなど)、中村俊輔(横浜FM)、本田圭佑(CSKAモスクワ)、香川のような2列目の選手、あるいは長友佑都(インテル)、内田篤人(シャルケ04)のようなサイドバックはある程度の実績を残しているが、FWは世界の高い壁に阻まれ続けてきた。この冬、欧州の扉をたたいたハーフナー・マイク(フィテッセ)、李忠成(サウサンプトン)も少しずつ試合には出始めているが、まだまだ未知数な部分が多い。チョン・テセもここからが本当のスタート。たぐいまれなたくましさと貪欲(どんよく)さを持つ彼には、日本育ちのFWの大いなる可能性を世界に示してほしいものだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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