山村和也、不完全燃焼感が色濃く残った復帰戦=ブランクを埋められず、試合勘不足を露呈

元川悦子

大きな岐路に立たされている

扇原の台頭もあり、山村のポジションも安泰ではなくなっている。プロ入りを機にもう一段レベルを上げたいところだ 【Getty Images】

 流通経済大の2年生だった10年1月のイエメン戦(サヌア)で国際Aマッチデビューを飾り、ワールドカップ・南アフリカ大会のサポートメンバーに選ばれ、関塚ジャパン発足後は攻守の要として君臨してきた彼にとって、今回の衝撃的敗戦は予想外の出来事と言えるかもしれない。ケガ明け、ピッチ状態の悪さなどを差し引いても、このパフォーマンスではやはり厳しい。しかも彼はこれからJリーグの舞台にデビューしようとしているところ。大学時代とは違い、鹿島アントラーズでは定位置を約束されているわけではないのだ。

「ジョルジーニョ監督が来てなかったんで、自分がボランチなのかセンターバックなのかはまだ話をしてないけど、どっちでもいけるようにしたいです」と本人は静かに意気込むが、かつてないほどの厳しい競争が待っていることは間違いない。

 鹿島のボランチは、ベテラン小笠原満男を筆頭に、展開力のある青木剛、昨季大きな飛躍を遂げた増田誓志、プロ1年目から起用された柴崎岳、そして負傷でシーズンを棒に振った本田拓也とそうそうたるメンバーがそろっている。ジョルジーニョ監督は野沢拓也の移籍もあって小笠原を本来の2列目で起用する考えを持っているようだが、し烈なポジション争いは覚悟する必要がある。それに比べるとセンターバックはやや手薄な印象だ。経験豊富な中田浩二はまだケガが癒えておらず、岩政大樹、新井場徹にしても年齢的にフル稼働は厳しそうなだけに、山村がレギュラーに食い込める可能性は高いだろう。

 ただ、どちらでもコンスタントに活躍できる保証はない。また、昨季の永井のようにJリーグでの試合出場時間が少なくなれば、五輪代表で控えに回されることもあり得る。シリア戦で山村に代わってピッチに立ち、的確なパス出しでリズムを変えた扇原貴宏のような伸び盛りの選手もいる。山村も「タカはもともとポテンシャルを持っている選手だったけど、Jで試合に出るようになってすごい成長した。刺激を受けてます」と脅威を感じている。そんな競争激化もあり、五輪代表でも鹿島でも、山村は今、大きな岐路に立たされていると言っても過言ではない。

追い込まれた今こそ真価が試される

 シリア戦の屈辱的な負けと不本意なパフォーマンスをこの先にどうつなげるか……。それは今日からの本人の努力次第と言える。大量得点での勝利が求められる22日のマレーシア戦に向け、U−23日本代表は17日から再び臨戦態勢に入ることになっている。山村はその間、鹿島の宮崎合宿に合流。シリア戦で露呈した実戦感覚を取り戻すとともに、もっとアグレッシブにゴールに向かっていけるコンディション作りを短期間で実現しなければならない。

「もしセンターバックで使われることになったとしても、大学からずっとそうなので、五輪との兼ね合いはそんなに変わらずやれるかなと思っています。鹿島に行けば、また一段レベルが高くなるし、満男(小笠原)さんのような選手を間近で見られるんで、しっかり勉強したいです。ボランチはボールを触る機会が多いし、ミスを少なくして周りを使えるように意識しないといけないんで、そういう部分をもっと良くしたいですね」と本人も改善ポイントを挙げる。シリア戦ではまさに指摘通りの課題が浮き彫りにされたのだ。

 五輪代表の命運が懸かるマレーシア戦、3月14日のバーレーン戦(東京・国立)まで時間は短いが、どんな状況でもボールを落ち着かせられるボランチへと少しでも成長し、シリアから首位の座を奪回すべくチーム全体を鼓舞していくしかない。1996年のアトランタ五輪で28年ぶりに世界への扉をこじ開けて以来、先輩たちが4度続けてきた日本の五輪出場の歴史を、彼らの世代で途絶えさせるわけにはいかないのだ。

 ただ、幸いにして、山村自身は他者からの吸収力は高いようだ。流通経済大としばしば練習試合をしている流通経済大柏高校の本田裕一郎監督がこんな話をしていたことがある。
「彼は国見時代から最終ラインに入ることが多かったんで、前を見ながら慌てずにさばくことの大切さを学び、自分で覚えていったのかなと思います。それだけの賢さも持っている。スピード化の進む現代サッカーにあって、彼のようなスローダウンできる選手が中盤にいることで、逆に周囲のスピードプレーヤーが生かされる。そういうメリットはチームにとって大きいですね」

 確かに南アフリカでの1カ月半で、A代表の選手たちと一緒にトレーニングする中で、山村はメキメキと力をつけていった。鹿島でも同じような化学変化が起きるかもしれない。彼がボランチとして高いパフォーマンスを再び発揮できるようになれば、関塚ジャパンの攻撃力は必ず活性化されるはず。ギリギリまで追い込まれた今こそ、彼の真価が試される時。プロの洗礼を浴びる山村が大型ボランチとして、キャプテンとして、どこまで変ぼうを遂げることができるのか。それが崖っぷちに立たされたU−23日本代表の1つの鍵になりそうだ。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント