本田圭佑、ラツィオ移籍破談の顛末=強大化するオイルマネーの力

神尾光臣

メルカートでは何が起こるか分からない

期限最終日までもつれた本田の移籍交渉は結局クラブ間で合意に至らず破談となった 【Getty Images】

「CSKAの広報が、『本田圭佑は残留する』との声明を発表した」

 1月31日の15時30分、衛星テレビ局のスカイ・イタリアは、ラツィオとCSKAモスクワの交渉決裂を報じた。「ラツィオの本田獲得は大丈夫」(ガゼッタ・デッロ・スポルト)「HONDA, Si(イエス)! 日本人のタレントがラツィオに到着」(コリエレ・デッロ・スポルト)と、移籍市場の登録期限だったこの日、地元紙はもつれた交渉がいよいよ集結するという期待感を煽っていた。

 しかし、それはならなかった。「メルカート(移籍市場)では何が起こるか分からない」という格言がこの業界には存在するが、CSKAは結局ラツィオのオファーに耳を貸さなかった。「クオリティーの高い国際的な選手で、中盤のさまざまな役割もこなせる。 彼だってイタリアに喜んできたがっているのだ」と言ったレーヤ監督の期待も裏切られた。

 ラツィオにとって悲惨だったのはそれだけではない。CSKAとの交渉にエネルギーを取られている間、シセやスクッリらが移籍した穴を埋めるFWなど必要な補強が完全におろそかになる。本田の交渉決裂後に慌ててビジャレアルへニウマール獲得交渉に向かうが、短時間でそんな大物を呼べるはずがない。結局獲得できたのは、期限付き移籍のMFカンドレーバのみだった。

 そんなふがいない結果に終わったラツィオのメルカート戦略に、地元メディアは低い評価を下した。ガゼッタ・デッロ・スポルトは各クラブの移籍戦略におなじみの採点を付けたが、ラツィオには及第点以下の5.5。ローマに本社を置くコリエレ・デッロ・スポルトは社説で、ロティート会長以下フロントを痛烈に批判した。
「攻撃陣を補強するという目標を掲げながら交渉を一つもまとめられず、かえってチームを弱体化させてしまった。夕食にも無駄金は使わないと言われるロティート会長だが、だったらなおのこと気張らず、慌てない補強戦略を取るべきではなかったのだろうか」

「ロシア人たちが移籍金のつり上げに走った」

 確かにラツィオは、CSKAとの交渉に当たり“気張り”、そして“慌てて”いた。彼らは、本田を獲得するためには必要不可欠だったEU圏外外国人選手獲得枠の放出すら決められていなかった。イタリアで新規のEU外選手を獲得する場合には、所属するEU外選手を他国に放出して枠を開けなければならないルールになっている。だが、長いこと放出候補に考えていたGKカリーソも、FWマキンワも国外への売却はできずに終わった。
 もっともカリーソについては、同じセリエAのカターニアへのレンタルがまとまったのが、CSKAとの交渉破談後だったことを考えると、ある程度放出のメドはついていたのかもしれない。CSKAとの交渉にあたり、移籍金とともに彼を条件につけるという報道もあった。

 しかし、何よりラツィオが泡を食ったのは、相手クラブの姿勢だ。ターレ強化部長はCSKAとの移籍交渉についてこう振り返った。
「ロシア人たちが移籍金のつり上げに走った。われわれは2度、3度とオファーを修正して持って行ったにも関わらず、彼らは最初に設定した高みから全く歩み寄って来なかった」

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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