クルム伊達から錦織へ 世界の常連になるために伝えられた“言葉”=テニス

内田暁

19歳差ペアで挑んだ混合ダブルス

19歳差ペアとして混合ダブルスに出場したクルム伊達(左)と錦織。2回戦敗退も、ファンを魅了した 【写真:AP/アフロ】

「その時、僕4歳だ」

 錦織圭(フリー)がポツリとそう言ったとき、クルム伊達公子(エステティックTBC)本人も含め、会見場にいた全ての人達が声を上げて笑った。

 去る1月16日〜29日に開催された全豪オープンテニスにて、自身初のグランドスラムベスト8進出を決めた錦織と、90年代に女子トップ10選手として、幾度もベスト8以上の実績を残してきたクルム伊達。
 そのクルム伊達が、自身初めて四大大会のベスト8を成し遂げたのが、1993年8月の全米オープンでのこと。そしてその時、錦織はまだ4歳(厳密には3歳と9カ月)だったというのだ。その歳月の長さを思ってか、クルム伊達は錦織を見やって、「4歳? 4歳……」とため息混じりにつぶやいた。

 世代を超えた日本テニス界の男女スターの共演は、錦織が松岡修造以来となる四大大会ベスト8入りの快挙を成し遂げた、2012年全豪オープンにて実現した。実はこのペアは、昨年夏の全米オープンの時点でも組もうという話があったが、その時はクルム伊達が左手を負傷したため「現実的な話を詰める前に、不可能になった」(クルム伊達)のだった。
 
 テニスの混合ダブルスは、エキシビションなどでファンを楽しませる目的で組まれることも多いが、四大大会ともなればやる方も真剣だ。混合ダブルスの経験の浅い錦織に対し、クルム伊達は「ミックスダブルスは、男子選手がいかに女子選手に対しても遠慮なく打っていけるかがカギ」とアドバイスを送ったという。女子選手は、相手の力を利用し、カウンターを打つのがうまい選手が多い。中途半端に手加減して打つと、思いも寄らない程に速いボールが返ってくることがあるから……というのが、大先輩の忠告だった。

 果たして19歳下の錦織は、クルム伊達のアドバイスを胸に刻んで、四大大会初の混合ダブルスに挑む。初戦の相手は、昨年の全米オープン準優勝チームという強敵だったが、クルム伊達が老獪(ろうかい)なラリーでゲームを組み立て、錦織が縦横に動いてポイントを決めるという形が次々に決まり、終わってみれば6−4、6−1の快勝。錦織も試合後には「今日は、女子選手相手でも思い切りやれました」と、笑顔を見せた。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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