和泉竜司、市船を優勝に導いた主将の矜持=起死回生のゴールで見せた成長の跡

安藤隆人

沖縄の地で神懸かり的な活躍を披露

決勝で2ゴールを挙げた和泉が、市立船橋を5度目の優勝に導いた 【鷹羽康博】

 第90回全国高校サッカー選手権決勝戦。四日市中央工が1−0とリードして迎えた後半アディショナルタイムは、まもなく表示の2分に達しようとしていた。市立船橋が最後の猛攻を仕掛ける。執念のゴールをたたき込んだのは、背番号10を背負うFW和泉竜司だった。
 起死回生の同点弾でチームを生き返らせた和泉は、延長後半5分にも見事なボールタッチから右足を一閃。放たれた弾丸ライナーはGKの手をはじき、ゴールに突き刺さった。自身今大会5得点目は、市船の5度目の選手権制覇を決定づけた。

 大会前から注目選手として名前こそ挙がっていたが、正直なところ、和泉のここまでの活躍は予想していなかった。なぜならば、彼はゴールから遠ざかっていたからだ。
 彼の名が強烈に頭に刻まれたのは、2010年の沖縄インターハイだった。この大会での和泉はまさに神懸かり的な活躍を見せている。

 山梨学院大附との3回戦。彼はそれまで不動のレギュラーという存在ではなく、ベンチを温めることも多かった。しかし、「技術的に高くて、左右両足が蹴れて、判断良くパスも出せる。ここに期待をして起用した」と石渡靖之前監督は先発に抜てきした。
「これまでは点を取りたい気持ちが空回りしてしまっていた。ゴール前で焦ったり、うまくいかなかった」と、点が取れない自分に焦りを感じていた時に、与えられたチャンス。この好機を彼は見事に生かした。

7ゴールで得点王に輝く

 和泉は開始7分で貴重な先制ゴールを決めると、「案外簡単に決めることができた。このゴールで吹っ切れて、気持ちが楽になった」とここから量産態勢に入る。この試合でもう1点を追加し、2ゴールをたたき出す活躍を見せると、準々決勝の立正大淞南戦では圧倒的な存在感を放った。

 開始早々の3分にペナルティーエリア外から、目の前で大きくバウンドする難しいクロスボールにうまく合わせ、左足で矢のようなダイレクトボレーを放つ。これがゴールに突き刺さり、会場のどよめきを誘った。その後、スライディングシュートで2点目を挙げると、今度はゴールまで約40メートルの位置から目の覚めるような弾丸ミドルシュートを左隅にたたき込む。2年生ストライカーが見せた圧巻のハットトリックだった。

 桐光学園との準決勝では、0−0で迎えた試合終了間際に、MF菅野将輝の左CKをどんぴしゃのヘッドで合わせ、値千金の決勝ゴール。チームを決勝まで導いた。
 そして迎えた滝川第二との決勝戦では、0−1の苦しい展開で迎えた後半25分に菅野のパスから起死回生の同点ゴール。1−1でもつれ込んだ延長戦では、追いついた勢いそのままにチームは3点をたたき出して、見事に全国優勝を飾った。

 和泉は4試合連続の7ゴールで得点王に輝いた。これまで埋もれていたストライカーが一気に日の目を見た瞬間だった。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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