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市船と四中工が示した守備力の重要性
第90回全国高校サッカー選手権 総括

多くのゴールが生まれた今大会

市立船橋は守備陣の成長と、もともと持っていた攻撃力がかみ合い、頂点まで駆け上がった
市立船橋は守備陣の成長と、もともと持っていた攻撃力がかみ合い、頂点まで駆け上がった【写真は共同】

 2−1、2−2、3−0、5−1、5−3、3−3、4−1、2−2、2−0、2−1、6−1。これは今大会、筆者が準決勝まで取材に行ったすべての試合のスコアだ。11試合ですべて2点以上入っていることになるが、正直、ここまで現場でゴールを見た大会はこれが初めてだった。筆者が見にいった試合以外にも、この大会はたくさんのゴールが生まれた。


 この背景には、攻撃サッカーを掲げるチームが増えていることもあるが、裏を返せば守備力の低下を示している。これは今大会を通じて、各方面で言われていることだ。

「近年の高校サッカーは守備力が低下している」

 今大会の総括では多くで指摘されているこの部分にあえて触れていきたいと思う。


 まず守備において、センターバック(CB)の人材不足という声が上がる。これは日本サッカー界全体に言えることで、優秀なアタッカーやボランチが多くいる反面、CBとしてトータルバランスの取れた選手は少ない。現に過去の年代別代表を見ても、180センチに満たない選手がCBに入ったり、本職がCBではない選手がこなしていることが多い。A代表においても今野泰幸と吉田麻也はいずれもCB一筋ではなく、もともとはボランチの選手である。


 高校年代においても、180センチを優に超え、空中戦も対人プレーもフィードも優れたCBの人材は、ほかのポジションに比べて層が薄い。今大会全体を見ても、180センチ以上のCBを抱えているチームは少なかった。もちろん高さだけがすべてではないが、将来的に考えるとCBにおいて必要不可欠な要素だけに、全体的なもの足りなさを感じざるを得ない。


 しかし、これだけが守備力の低下を示しているわけではない。より重要かつ深刻な問題となっているのが、守備に対する考え方の問題だ。


「今、バルセロナのパスサッカーがすごく話題になっていて、それを見本にして、パスサッカーを趣向しているチームがたくさんいる。でも、バルセロナという理想的なサッカーの本質はうわべだけのパス回しではなく、世界トップクラスの選手が次から次へとポジションを取って、相手ボールを奪うためにどんどんスライドしている。クラブワールドカップでは、サントスがバルセロナを相手にパスを3〜4本以上回せなかった。わたしには、それが衝撃的でした。いくらパスサッカーを趣向しても、プレッシャーの緩い状況下での試合や練習をしていては、世界で戦うのは難しい」


 これは決勝後の記者会見で、四日市中央工の樋口士郎監督が語った言葉だ。この言葉にすべてが凝縮されていると言っていい。

“きちんと守る、きちんと攻める”が徹底されず

 近年、高校サッカーだけでなく、Jユース、小学生、中学生年代でもバルセロナを引き合いに出す指導者やチームが多い。目標としている選手を聞くと、シャビやイニエスタの名前を挙げる選手が圧倒的に多いのだ。これ自体は悪いことではないが、『猫も杓子(しゃくし)も』感は否めない。


 世界の名だたる名将たちをもってしても、「バルセロナのサッカーは特別。まねできるものではない」と言わしめるサッカーを当然、コピーできるはずがない。シャビやイニエスタになれるはずもない。大事なのはそこからいかに本質をいくつかピックアップして、それに近づけるか。樋口監督の言葉のように、バルセロナのサッカーをパスサッカーという非常に抽象的なものにとらえて、それをまねしようとしているきらいがあるのは事実だ。


 現に今大会を見ても、フリーでボールを受けて前を向けばチャンスなのに、周りを見ないでダイレクトでパスをつないだり、シュートを打つべき場面でも味方につないでしまったり、無理してつなごうとするあまりバックパスが多くなっているチームが多かった。そしてショートパスばかりを多用して、ボールサイドに偏っては、守備を得意としているチームに囲い込まれ、そこから逆サイドに展開されてショートカウンターであっさりとやられてしまう。


“つなぐ”という作業にばかり目がいってしまい、本質である、“きちんと守る、きちんと攻める”が徹底されていなかった部分はあった。それは見栄えはいいが、ささいなことでの脆さを抱えたチームが多かったことが、この大量失点にも影響している。


 もちろん、一概にすべてのチームがそうだったわけではない。攻撃サッカーを掲げるチームには、前線にタレントがそろっているチームだけでなく、逆に守備陣に人材がいないから攻撃サッカーを掲げざるを得ないチームも見受けられた。それはJユースに人材が流れる高校サッカーの現状を表していて、指導者の苦悩を映し出しているものでもあった。

安藤隆人

大学卒業後、5年半勤めた銀行を退職して単身上京し、フリーサッカージャーナリストに転身した異色の経歴を持つ。ユース年代に情熱を注ぎ、日本全国、世界各国を旅し、ユース年代の発展に注力する。2012年1月にこれまでのサッカージャーナリスト人生の一つの集大成と言える、『走り続ける才能たち 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)を出版。筆者自身のサッカー人生からスタートし、銀行員時代に夢と現実のはざまに苦しみながらも、そこで出会った高校1年生の本田圭佑、岡崎慎司、香川真司ら才能たちの取材、会話を通じて夢を現実に変えていく過程を書き上げた。13年12月には実話を集めた『高校サッカー 心揺さぶる11の物語』(カンゼン)を発刊。ほかにも『高校サッカー聖地物語 僕らが熱くなれる場所』(講談社)、があり、雑誌では『Number』、サッカー専門誌などに寄稿。2013年5月〜14年5月、週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』を連載した。

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