東龍が史上初の4連覇、男子は大村工が2度目V=春高バレー
4連覇を成し遂げた東九州龍谷の選手たち 【坂本清】
■崖っぷちに追い込まれた準決勝
女子の出場校52校中、東九州龍谷(以下、東龍)を除く51校がおそらく同じ目標を抱いていた。
「打倒、東龍」
3年連続して春高バレーを制した女王の独走を、これ以上許すわけにはいかない。1年時から東龍のエースとして出場する、主将の鍋谷友理枝も昨年までとは異なる危機感を感じていた。
「どのチームも東龍を倒すために必死だった。今までとは比べ物にならない気迫を感じました」
これまで春高では優勝しか経験していない。その鍋谷が「ここまで追い詰められた記憶がない」と振り返ったのが、準決勝の下北沢成徳(東京)戦。2−0とリードした状態から、エースの大竹里歩を中心に下北沢成徳が猛追、2−2とされただけでなく、最終セットは5−10とまさに崖っぷちまで追い込まれた。
そして鍋谷以上に、追い込まれていた選手がいた。この大会が自身にとって「ほぼ初めて」の出場となる3年生、鍋谷の対角に入った稲永彩乃だった。
「苦しい場面で自分が前衛に(なるローテーションが)回ってきた。『自分が点を取ろう』ではなく、『何とか鍋谷につなごう』という気持ちでいっぱいでした」
4連覇のかかった大事な大会で、相原昇監督は「鍋谷に匹敵するジャンプ力、パンチ力がある」と、昨夏の高校総体(7〜8月、青森など)までは出場機会がなかった稲永を最後の大会でレギュラーに抜てきした。
「何とか自分のできることを」と必死でプレーしたが、先述の下北沢成徳戦では立て続けにスパイクをブロックされ、「どう打てばいいかわからなくなった」というほど動揺した。ラリー中にトスが上がってきても助走すらしていないため、ただ返すことしかできない場面が何度もあった。
練習試合の回数はゼロ、独自スタイル貫く
東九州龍谷の苦境を救ったエース・鍋谷友理枝 【坂本清】
相原監督は「(チーム内の)AB戦が一番高いレベルの練習になる」と言うが、手の内を知った相手との練習では限りがある。事実、稲永も「AB戦ではできたことも、実戦ではできなかった」というのが現状。ユース、ジュニアなどの世界大会にも在学中の選手を派遣せず、自校のみで鍛錬を重ねると言えば聞こえはいい。だが、視野を広げればプラスとばかりは言い難いのではないか。
それだけ稲永が追い込まれながらも、1年生セッターの比金みなみが「トスが集まる中でも打ち切って得点してくれた」という絶対的エースの鍋谷が決め切り、勝利を収めた。だが、あわや敗退というだけでなく、稲永のように実戦経験の少ない選手が直面した試練と、そこで背負ったかもしれないリスクを考えると、実に酷な結果を招きかねなかったことも、忘れてはならない。
ともあれ、4連覇という大記録を打ち立てた選手たちの精神力、功績は素晴らしい。
その中心で活躍し、「最高の舞台だった」という春高バレーを負けなしで卒業していく鍋谷は、今春からV・プレミアリーグ、デンソーの選手としてプレーする。東龍の枠を超えた鍋谷が、これからどんな選手へと進化していくのか。東龍の牙城(がじょう)を崩す高校の出現とともに、また新たな楽しみとなりそうだ。