東龍が史上初の4連覇、男子は大村工が2度目V=春高バレー

田中夕子

4連覇を成し遂げた東九州龍谷の選手たち 【坂本清】

 第64回全日本バレーボール高校選手権(以下、春高バレー)は9日、東京体育館で男女決勝が行われ、女子は東九州龍谷(大分)が氷上(兵庫)を3−0(25−16、25−16、25−13)で破り、4大会連続6度目の優勝(春高バレーとしては5大会連続7度目)を果たした。一方、男子は大村工(長崎)が創造学園(長野)を3−2(20−25、25−23、25−16、22−25、15−11)で破り、8大会ぶり2度目の優勝(春高バレーとしては初)を飾った。

■崖っぷちに追い込まれた準決勝

 女子の出場校52校中、東九州龍谷(以下、東龍)を除く51校がおそらく同じ目標を抱いていた。

「打倒、東龍」

 3年連続して春高バレーを制した女王の独走を、これ以上許すわけにはいかない。1年時から東龍のエースとして出場する、主将の鍋谷友理枝も昨年までとは異なる危機感を感じていた。

「どのチームも東龍を倒すために必死だった。今までとは比べ物にならない気迫を感じました」

 これまで春高では優勝しか経験していない。その鍋谷が「ここまで追い詰められた記憶がない」と振り返ったのが、準決勝の下北沢成徳(東京)戦。2−0とリードした状態から、エースの大竹里歩を中心に下北沢成徳が猛追、2−2とされただけでなく、最終セットは5−10とまさに崖っぷちまで追い込まれた。

 そして鍋谷以上に、追い込まれていた選手がいた。この大会が自身にとって「ほぼ初めて」の出場となる3年生、鍋谷の対角に入った稲永彩乃だった。

「苦しい場面で自分が前衛に(なるローテーションが)回ってきた。『自分が点を取ろう』ではなく、『何とか鍋谷につなごう』という気持ちでいっぱいでした」

 4連覇のかかった大事な大会で、相原昇監督は「鍋谷に匹敵するジャンプ力、パンチ力がある」と、昨夏の高校総体(7〜8月、青森など)までは出場機会がなかった稲永を最後の大会でレギュラーに抜てきした。
「何とか自分のできることを」と必死でプレーしたが、先述の下北沢成徳戦では立て続けにスパイクをブロックされ、「どう打てばいいかわからなくなった」というほど動揺した。ラリー中にトスが上がってきても助走すらしていないため、ただ返すことしかできない場面が何度もあった。

練習試合の回数はゼロ、独自スタイル貫く

東九州龍谷の苦境を救ったエース・鍋谷友理枝 【坂本清】

 だが、それも無理はない。何しろ鍋谷や稲永の世代が入学してからこれまでの3年間、東九州龍谷の練習試合の回数は何とゼロ。複数校で合宿を行い、練習試合を通して強化、交流を図る学校がほとんどである中、東龍のように練習試合を全く行わないのは異例だ。
 相原監督は「(チーム内の)AB戦が一番高いレベルの練習になる」と言うが、手の内を知った相手との練習では限りがある。事実、稲永も「AB戦ではできたことも、実戦ではできなかった」というのが現状。ユース、ジュニアなどの世界大会にも在学中の選手を派遣せず、自校のみで鍛錬を重ねると言えば聞こえはいい。だが、視野を広げればプラスとばかりは言い難いのではないか。

 それだけ稲永が追い込まれながらも、1年生セッターの比金みなみが「トスが集まる中でも打ち切って得点してくれた」という絶対的エースの鍋谷が決め切り、勝利を収めた。だが、あわや敗退というだけでなく、稲永のように実戦経験の少ない選手が直面した試練と、そこで背負ったかもしれないリスクを考えると、実に酷な結果を招きかねなかったことも、忘れてはならない。

 ともあれ、4連覇という大記録を打ち立てた選手たちの精神力、功績は素晴らしい。
その中心で活躍し、「最高の舞台だった」という春高バレーを負けなしで卒業していく鍋谷は、今春からV・プレミアリーグ、デンソーの選手としてプレーする。東龍の枠を超えた鍋谷が、これからどんな選手へと進化していくのか。東龍の牙城(がじょう)を崩す高校の出現とともに、また新たな楽しみとなりそうだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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