尚志、福島に勇気を与える“希望の1点”=大敗にも示し続けたあきらめない姿勢
“国立の魔物”にのみ込まれ
尚志は山岸(9)のゴールで1点を返したものの、国立の雰囲気にのまれ、大敗を喫した 【たかすつとむ】
尚志にとっては初の国立競技場。序盤は全員が思い切りの良いサッカーで、主導権を握ることができた。しかし、それは決して狙い通りの展開ではなかった。「立ち上がりは相手が主導権を握ってくるので、リアクションサッカーで対応しようとしたが、逆にペースをつかめたことで、全員が前掛かりになってしまった」と仲村浩二監督が語ったように、ゲームプランは守備から入って、徐々に攻撃の圧力を強めていく算段だった。それが逆に攻撃から入ってしまったことで、逆に四中工のカウンターの餌食となってしまったのだ。そして、35分にセットプレーから先制を許すと、状況は一変する。
「先に失点してしまったせいで、より攻撃的に行かなければいけなくなって、より相手の思うつぼになってしまった」(仲村監督)。
41分には右サイドを突破され、MF寺尾俊祐のクロスから、MF田村翔太に手痛い追加点を奪われる。
0−2。想定外の流れから2点のビハインドを負ったことで、さらに選手は混乱に陥った。そこに立ち上がりは気が付かなかった“国立の魔物”がのしかかってくる。
「国立の雰囲気は全然違った。これまでとは比べ物にならないくらいで、完全にのまれてしまった」とFW皿良優介が語ったように、尚志イレブンは徐々に国立の雰囲気に圧倒されていく。
平常心に戻らなければいけないのに、国立が放つオーラがそうさせてくれない。自分たちの得意な形に持ち込み、勢いに乗る四中工に対し、異様な存在感を放つ国立が彼らの動きの自由を奪っていった。
「国立の放つオーラというか、僕でもこの雰囲気は異様に感じた。その中で何とか1点を奪いたかった」
この苦しい状況下において、ベンチの仲村監督は同点、逆転を信じる一方で、まずは1点を奪うことを重要視していた。なぜならばこの1点は単なる1点ではないことを理解していたからであった。
「1点を奪うことが福島の皆さんの希望になると思った。相手ペースの展開を嫌って、守備に回るよりも、どんどんリスクを冒して何とかして1点を取りたかった。失点を恐れて、受け身になって戦うことよりも、失点してもいいから1点でも多く取りに行く姿勢を示すことが、より福島の皆さんに勇気を与えられると思った」
結実した選手たちの思い
しかし、四中工の堅い守備を破れないでいると、65分にカウンターからMF松尾和樹に決定的な3点目を奪われる。さらに77分にはFW浅野拓磨に豪快なミドルシュートをたたきこまれ0−4。
だが、どんなに失点しても、どんなに決定的なチャンスを作られても、尚志は攻めの姿勢を崩さなかった。直後の78分には金田のヒールでの落としから山岸が強烈なシュート。これはゴールバーを激しくたたき、こぼれ球に金田が反応するが、放ったシュートはバーを越えていった。
徐々に近づく四中工ゴール。そしてついに彼らの思いが結実する。82分、金田の左サイドからのクロスを、交代出場のFW福永裕大がダイレクトで落とすと、これを山岸が豪快に突き刺した。
“希望の1点”が生まれた。何度もピンチを迎え、失点を重ねながらも、愚直なまでにゴールを狙い続けて、全員でもぎ取った1点。その後も得点することをあきらめなかった尚志は、さらに攻勢を強めたが、終了間際の89分、90分とカウンターから立て続けに2ゴールを奪われ、電光掲示板には冒頭のスコアが刻まれた。