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國學院久我山がつなぐサッカーを目指す理由
効率を求めて文武両道を実現

たとえミスをしてもつなぐスタイルは変えない

3回戦敗退に終わった國學院久我山だが、最後までボールをつなぐスタイルは崩さなかった
3回戦敗退に終わった國學院久我山だが、最後までボールをつなぐスタイルは崩さなかった【岩本勝暁】

「ああいうミスが起きればやはり、『こういう大会の特に前半は蹴っておけばいいんじゃないか?』という意見も出るかと思います。その意見に対してどう返しますか?」


 3日に行われた3回戦・矢板中央戦後、國學院久我山の李済華(リ・ジェファ)監督にこういう質問をぶつけてみた。1−1からのPK戦(3−5)での敗戦とはいえ、久我山は開始1分にも満たない25秒にディフェンスのバックパスをGKが空振り。それを矢板中央のFW福澤邦人に詰められ先制点を許した。その失点を「アクシデント」と表現した李監督だったが、GKを使ったビルドアップ、つなぐサッカーを貫く久我山だからこそ起こった致命的ミスであり、失点と言えるだろう。李監督は冒頭の質問に対してこう返した。


「わたしは蹴っておけとは思わないです。ミスというのはあると。ミスを怖がって自分たちのプレースタイルを変えるよりも、複合的なミスの問題だとか、ボールコントロールの問題だとかという形でとらえることが大事だと思います」


 また、李監督は「(矢板中央は)粘り強く戦っていました。体力的に強くというよりも、それをかわせるだけの自分たちのサッカーを、スタイルを貫いて、彼たちをやっつけられるチームになるべきだと思います」とした上で、「この負けを機にフィジカル的に鍛えあげるようなことはしないのか?」との問いに、苦笑しながら「あり得ないです」と答えた。


 李監督が長い年月をかけて浸透させてきた久我山のつなぐサッカースタイルでは、「ボールコントロールと状況判断が一番大切」であり、そのサッカーを志向する理由は、「単純に勝つ確率が高いから」だという。高校サッカー界でも近年は独自のスタイルを確立して全国の舞台で脚光を浴びるチームが出始めているが、スタイル自体に良し悪しというものはないし、久我山のスタイルが「善」で誰もがそれを追求すべきとも思わない。しかし、いまだ閉鎖性と非合理性の残る高校サッカー界において久我山のスタイルというのは一考する価値があるものではないか。わたしがそう考える理由は、「効率的だから」というたった一つ、その一言だ。

制約があるから短時間で効率的な練習に

攻撃をけん引したキャプテンの右高。高い技術を発揮し、今大会3ゴールを挙げた
攻撃をけん引したキャプテンの右高。高い技術を発揮し、今大会3ゴールを挙げた【photo by 原田亮太】

 久我山のようにボールコントロールを大切にするサッカーにおいては、身体能力の高い選手やハードトレーニングは必要不可欠ではない。たとえスポーツ推薦であっても高い評定平均と偏差値が求められ、入学後もサッカーと勉強の両立が求められる久我山のような高校では「手持ちの選手層でいかに勝つか」と同時に「いかに短時間で効率良く練習するか」が問われる。一般的に久我山は「うまい選手を集めているからつなぐサッカーができる」と考えられているが、わたしから言わせれば、それとは真逆の発想と現状だ。


 選手獲得と練習時間で学校が設けた制約があるから、ボールを主体としたつなぐサッカーを志向し、ボールコントロールを重視した短時間で効率的な練習メソッドを用いる。そうしたスキームがあるからこそ、今大会も華奢(きゃしゃ)で「違うチームにスカウティングされなかった」(李監督)という状況判断に優れた1年生の渡辺夏彦、平野佑一らが出場し、活躍できていたのだ。


 文武両道を実現するべく東京ヴェルディユースへの昇格ではなく、久我山入学を選択した平野が「ここは練習の終わりが早く、自宅からも近いので、帰宅後2時間以上の勉強時間を確保できています」と話していた。こういう発言がもし異質に聞こえるのであれば、まだまだ高校サッカー界が選手に「サッカー漬けの生活」を強いているということだ。


 高校生のみの問題ではなく、人間誰にとっても時間は有限だ。限りある時間、人生だからこそ、特に多感な高校時代にはサッカー以外のさまざまなことに触れる時間を持つべきではないか。他校に比べて休みの多い久我山の選手たちは、勉強のみならず、映画や音楽、彼女とのデートを楽しむのだという。


 オフに思い切り勉強し、思い切り遊ぶからこそ、サッカーをする時に最大限の集中力とパフォーマンスが発揮できる。単に勝った負けたで久我山のサッカーやスタイルを評価するのではなく、なぜ久我山が高いレベルで文武両道を実現できているのか、そのためにどういう考え、練習メソッドを持っているのかを見ていけば、彼らがつなぐサッカーを目指す理由と同時に、常日ごろ「人間教育」をうたう高校サッカー界が参考とすべきものも浮き彫りとなるのではないだろうか。


<了>

小澤一郎
小澤一郎

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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