鈴木武蔵、ベールを脱いだ“上州の弾丸”=初出場の桐生第一をけん引する未完の大器

安藤隆人

ゆっくりと階段を駆け上がり、新たな局面へ

大社戦でハットトリックの活躍を見せた鈴木(10)。ド派手な全国デビューを果たした 【岩本勝暁】

 ブラジルに準々決勝で敗れ、ベスト8に終わったU−17W杯。鈴木は身体能力を生かしたドリブルが世界で通用することを実感したと同時に、駆け引きの重要性を身を持って知った。
 ベールを脱ぎ去って帰国した鈴木は、ここから快進撃を続ける。彼を欠いたインターハイ(高校総体)県予選はベスト16で早々に姿を消したチームが、選手権予選では決勝まで勝ち上がり、“群馬の雄”である前橋育英を0−2のビハインドから3−2と試合をひっくり返し、全国への切符を初めて手にした。この試合、ゴールこそなかったものの、鈴木のドリブルは誰も止められなかった。

 迎えた選手権。初戦となった2回戦の大社(島根)戦で鈴木はハットトリックというド派手な全国デビューを果たすと、3回戦の奈良育英(奈良)戦でも1ゴールをマーク。チームのベスト8進出の立役者になるとともに、得点ランキングでも4ゴールで1位タイにつけている。

「U−17W杯でゴール前での落ち着きを学んだ。世界のFWは必ず結果を残すし、ゴール前の落ち着きがすごい。とても勉強になりました。これまでは周りが見えずに、前を向けるのに向けなかったり、周りを生かした方がいいのに生かさなかったりしていた。今はだいぶゴール前でも落ち着いてプレーできるようになったことが、点を取れている要因だと思う」

 ほかの選手よりは遅いかもしれないが、着実に成長している鈴木武蔵。そのポテンシャルは計り知れない、まさに“未完の大器”。逆に言えば、まだ“未完”なだけに、完成しないまま終わることだってあるだろう。まだまだここで将来を約束するのは早いが、彼は今、よりスピードを上げて階段を上ろうとしている。

 ベールを抜いた“上州の弾丸”は今、新たなステージを迎えている。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント