鈴木武蔵、ベールを脱いだ“上州の弾丸”
初出場の桐生第一をけん引する未完の大器

U−16日本代表で成長

ジャマイカ人の父を持ち、抜群の身体能力とスプリント力を誇る未完の大器が選手権で花開こうとしている
ジャマイカ人の父を持ち、抜群の身体能力とスプリント力を誇る未完の大器が選手権で花開こうとしている【岩本勝暁】

 一言で言うと不思議な選手である。第90回全国高校サッカー選手権大会の最注目選手の1人、桐生第一(群馬)の鈴木武蔵は卒業後にJ1アルビレックス新潟に入団が内定している逸材だ。

 話題性は十分。ジャマイカ人の父を持ち、自身もジャマイカ生まれ。184センチの長身を誇り、長い手足が非常に目立つ。抜群の身体能力を誇り、50メートルを5秒9で走るスプリント力もある。だが、昨年まであまり注目を集める存在ではなかった。


 鈴木は地元のFCおおたジュニアユースから桐生第一に進んだ。入学直後は身体能力こそ高かったが、その能力を生かし切れないほど荒削りだった。

「入学してからの1年間はトラップとキックしかやらせていない。止める、蹴るの基礎を徹底して鍛えた。試合で使う前に、まずは基礎からだった」


 小林勉総監督が振り返るように、鈴木が公式戦に姿を現すことはなく、謎のベールに包まれたままだった。2年生になった2010年春、彼はU−16日本代表に選出された。

「『面白いやつがいるから見てみてよ』と吉武(博文、当時U−16日本代表監督。現在も2期連続でU−16日本代表監督)に頼んだら、代表を経験して伸びたよ」(小林総監督)


 小林総監督によって、徹底的に基礎指導と大きな刺激を与えられた鈴木は、徐々に原石からフットボーラーとして形作られていく。しかし、それでも彼は謎のベールに包まれたままだった。代表では試合でプレーしていても、桐生第一では全くと言っていいほどプレーをする姿が見られなかったからだ。

「この選手は何なんだ?」と、さらに大きな疑問が膨らむ一方だった。だが、これも指揮官の“鈴木武蔵育成術”の1つであった。代表に選ばれても天狗(てんぐ)になって基礎をおろそかにしないように、彼のメンタルコントロールと、基礎の徹底を継続した。10年10月に行われたU−16アジア選手権は登録上の都合で出場できなかったことから、またも謎のベールは膨らむ一方となった。

U−17W杯でつかんだ手ごたえ

 しかし2011年、このベールは一気に振りほどかれる。6月のU−17ワールドカップ(W杯)・メキシコ大会に挑むU−17日本代表に選出。直前のスロバキア遠征で負傷し、出場が危ぶまれていたが、何とか滑り込みで間に合った。

 メキシコの地で、基礎をみっちりたたき込まれた鈴木は大きく躍動した。グループリーグ初戦の相手は父の母国・ジャマイカ。身体能力の高さが持ち味の相手に対し、後半から投入された彼はほぼ互角、いやそれ以上に渡り合った。


 鈴木がボールを持つと、1人だけ空気が明らかに違うのだ。ボールの置きどころ、仕掛ける時の体の動き、そして佇まい。それは、ほかの日本の選手にないものだった。鈴木に対し、明らかにジャマイカの選手たちは困惑していた。1対1で対峙(たいじ)すると、爆発的な初速と、長い手足を生かし、相手をボールに近づけさせない。1人だけ異次元のスピードを駆使する謎の日本人に、ジャマイカだけでなくほかの強国も驚きを隠せずにいた。


 第2戦のフランス戦において、左サイドは鈴木の独壇場だった。屈強なフランス人でも彼のドリブルには手を焼いていた。そして、第3戦のアルゼンチン戦でも途中出場ながら、左サイドで何度もチャンスを作ると、2−0で迎えた74分に、左サイドを独走。いつもならカットインしてシュートを選択していた鈴木は、中央に飛び込んだ秋野央樹(柏U−18)に絶妙のセンタリングを送り込み、3点目を演出した。


「あの瞬間、いつもはシュートしか考えていないのに、ふと『よりゴールに有利な判断をしよう』と思った。あのアシストで、仕掛けてシュートばかり狙うのではなく、周りを生かすことの大切さを学んだ」

 この大会、それまで鈴木はノーゴールだった。ドリブルで仕掛けて決定的な場面を作り出すが、強引にシュートにいってしまう。シュートの精度には大きな課題を残しており、放ったシュートはことごとくゴールに嫌われていた。だが、ここでアシストの重要性を学んだことで、また一段とフットボーラーとしての階段を上っていった。この試合から明らかに鈴木のプレーが変化した。ドリブルの仕掛け時、シュートを打つべき時とパスをすべき時。この判断を彼なりにつかもうとしていた。

安藤隆人
安藤隆人

大学卒業後、5年半勤めた銀行を退職して単身上京し、フリーサッカージャーナリストに転身した異色の経歴を持つ。ユース年代に情熱を注ぎ、日本全国、世界各国を旅し、ユース年代の発展に注力する。2012年1月にこれまでのサッカージャーナリスト人生の一つの集大成と言える、『走り続ける才能たち 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)を出版。筆者自身のサッカー人生からスタートし、銀行員時代に夢と現実のはざまに苦しみながらも、そこで出会った高校1年生の本田圭佑、岡崎慎司、香川真司ら才能たちの取材、会話を通じて夢を現実に変えていく過程を書き上げた。13年12月には実話を集めた『高校サッカー 心揺さぶる11の物語』(カンゼン)を発刊。ほかにも『高校サッカー聖地物語 僕らが熱くなれる場所』(講談社)、があり、雑誌では『Number』、サッカー専門誌などに寄稿。昨年まで1年間、週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』を連載した。

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