清水商、退任する名将に有終の美を=第90回高校サッカー選手権・注目校紹介 第5回

安藤隆人

高校サッカー界きっての名門

キャプテンとしてチームをけん引する風間が名門復活の鍵を握る 【平野貴也】

 眠れる獅子が目覚めたと言えようか。長い間眠りについていた高校サッカー界きっての名門が、11年の時を経て、遂に復活の時を迎えた。静岡市立清水商業。かつては清水市立商業として、高校サッカーの歴史に欠かせない存在となっていた(編注:2003年に静岡市と清水市の合併により、静岡市立清水商業と改称)。

 今から40年前、サッカー王国をけん引する存在として頭角を現すと、そこから全国大会の上位常連校となり、1985年の第64回大会では、遂に選手権王者に輝く。そして、ここから実に3度の選手権制覇を成し遂げた(第64回、第67回、第72回)。GK川口能活(現・磐田)を擁した第72回大会での優勝は、選手権の歴史を彩った大きな1ページとなっている。しかし、ここから静岡学園の復活で徐々に全国から遠ざかると、2000年に小林大悟(現・清水)を擁して11回目の出場を果たして以降は、パタッと表舞台から姿を消した。

 全国大会に出られないことから、周囲からは低迷と見られていたが、そこに息づく名将の目は一度たりとも色あせてはいなかった。大瀧雅良。清水市商から拓殖大に進み、1974年に母校に教師として赴任。2年後の1976年に監督に就任すると、そこから清水商を名門に仕立て上げた。栄華を迎えた1980年〜2000年前半。しかし、それ以降はJクラブユースの台頭、私学の台頭などで、県内で思うように勝てなくなっていった。
「指導は忍耐。常に情熱を持って、選手たちに接しないといけない」
 そう口にする名将は、全国大会に出られない日々が続いても、根気よく、そして情熱を持ってグラウンドに立ち続け、菊池直哉(現・新潟)、水野晃樹(現・柏)、平岡康裕(現・清水)ら多くのJリーガーを輩出し続けた。

「大瀧監督を選手権に」を合言葉に

 しかし、大瀧監督は今年度末で定年を迎えることになった。そして追い打ちをかけるように、2012年度をもって学校統合により清水商という名前は正式になくなることが決まった。監督としての最後の1年。周りから何を言われようが、情熱を灯し続けてきた名将の最後を最高の形で飾ろうと、また清水商の名の下でさらに歴史を刻もうと、チームは一つになった。

 サッカー解説者で筑波大学サッカー部監督でもある風間八宏氏の二男であるMF風間宏矢、屈強なセンターバック新井一耀、そして1ボランチとしてハードワークを厭わない攻守の要・青木翼と、決定力のある2年生パワーストライカー・佐野翼といったタレントがそろったこともあり、チームは春先から快進撃を続ける。

 インターハイ予選こそ準決勝で藤枝東に0−1で敗れたが、プリンスリーグ東海1部では勝ち星を重ねていく。最終的には磐田ユースと勝ち点32で並びながら得失点差でわずか3点及ばず2位に終わり、高円宮プレミアリーグイースト参入戦には進めなかったが、14試合で36得点と圧倒的な攻撃力を見せつけ、全国レベルの力を持っていることを示した。

 そして迎えた選手権予選。「大瀧監督を選手権に」の合言葉のもと、選手は一丸となって戦った。プリンス東海で1勝1敗だった藤枝明誠を2−1で破ると、決勝ではダントツの優勝候補だったインターハイ準優勝の静岡学園を、風間の1得点2アシストの活躍もあり、3−0で一蹴(いっしゅう)。静岡学園は鹿島に入団が内定しているDF伊東幸敏を始め、全国トップクラスのタレントを擁していたが、清水商のリスク覚悟の果敢な前線からのプレスと、精度の高いサイドアタックの前に、自分たちのサッカーをさせてもらえなかった。まさに圧巻ともいえる気迫の勝利で11年ぶり12回目の選手権出場をつかんだ。

 静岡学園戦でのサッカーを見る限り、このチームは優勝候補と呼ぶにふさわしいチームであることがよく分かる。絶頂の時も苦しい時も、変わらぬ気持ちと鋭い視線で、チームをけん引し続けた名将に最後の花道を飾るべく、そして清水商という名をもう一度全国にとどろかせるべく、今大会を戦う選手たちだけでなく、これまで歴史を築き上げてきたすべての人間が、心を一つにして今大会に挑む。

<了>
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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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