作陽、原点回帰で取り戻したパスサッカー=第90回高校サッカー選手権・注目校紹介 第3回

安藤隆人

順風満帆ではなかった1年

司令塔として攻撃のタクトを振る高瀬(10番)。チームの大黒柱として、最後の選手権に臨む 【安藤隆人】

 地方予選で本命とされたチームが軒並み敗れる波乱の展開となった今大会。作陽は岡山県予選を順当に勝ち上がってきた。本大会の優勝予想をするなら、筆者は作陽を挙げたいと思うほど、チームは高い完成度を誇っている。

 今年のチームは全学年にタレントを擁するチームとして、前評判が高かった。1年生から攻守の要として、作陽サッカーの中心人物となっているMF高瀬龍舞が最終学年を迎え、心身共に大黒柱に成長。守備面では1年生の時から出番をつかんでいる河面旺成と米原祐の2人の頼もしき2年生がいる。河面はセンターバック(CB)として高い守備力を誇るだけでなく、左足のキックの精度は群を抜く。的確な状況判断で長短のキックを巧みに使い分け、左サイドバックとしても、CBとしても起点となれる能力を持つ選手だ。

 米原は空中戦に強く、クレバーで守備陣を統率できるDFリーダー。前線には高速ドリブルと柔軟に変化するドリブルを使い分けることができる山本健奨と、高い技術を誇り、前線でポストプレーもできる辻井和明の3年生コンビがけん引する。これだけみると、戦力的には全国トップクラスを誇っていると言っていい。

 しかし、今年は決して順風満帆ではなかった。
「やりたいことにエラーが生じていた。作陽サッカーを実現するにあたって、幹となるべきところがぶれていた」と野村雅之監督が語ったように、作陽本来の組織的な守備から、テンポ良いパス回しと効果的なサイドチェンジで効率良く攻めていくスタイルに、ブレが生じていたのだ。

「新しくチャレンジしたことが、結果として本来のスムーズなボール回しを滞らせてしまった」(野村監督)。

 新しい練習メニューを取り入れ、上積みを加えようとしたが、結果的にそれが今までやってきたことの妨げとなってしまっていた。組織として思うようにサッカーが展開できなかったチームは、河面、米原のけがによる離脱の影響も受けて、春先から厳しい戦いを強いられる。インターハイ予選では準決勝で玉野光南に敗れるなど、戦力とは裏腹に、結果が出ない時期が続いた。

 しかし、「インターハイ予選で負けたことで、もう一度原点に返ることができた。インターハイ前、インターハイ期間中に、これまでずっとやってきたことをもう一度繰り返して、原点回帰を図った。そうしたら驚くほどボールがスムーズに回るようになった」と野村監督が語ったように、どこかつながり切れていなかった個々がパスサッカーの下につながりを見せた。全員で連動して相手を囲い込んでボールを奪い取り、そこから長短のパスを織り交ぜて、サイドを起点にしながら、一気に切り崩していく。

 さらにここに、期待の1年生が台頭してきたことも大きかった。左サイドハーフの平岡翼はとにかく早い。野村監督も「あれはすごい、もう異次元のスピードだよ」と舌を巻く速さを誇っている。さらに182センチの大型MF山本義道、高い技術を誇るMF青木大峰らがチーム力をさらに底上げさせた。

四国王者に快勝し、プレミア昇格を果たす

平岡(写真)ら1年生の台頭が、チーム力を底上げさせた 【安藤隆人】

 プリンスリーグ中国1部では、試合をこなすごとに安定感を増していき、優勝を勝ち取ると、選手権の予選決勝では玉野光南にリベンジを果たした。12月17日には、来年度の高円宮杯プレミアリーグウエストの参入を懸けたプレーオフで、プリンス四国王者の済美と対戦。済美はプリンス四国で2トップが大量54得点を奪った圧倒的な攻撃力が売りのチームだったが、作陽は5−1と快勝し、来年度からのプレミア出場権を手にした。

 済美戦の立ち上がりは米原と高見のCBコンビを軸に、しっかりと中央でブロックを敷き、ラインも深めに設置して、相手の攻撃をけん制した。2トップを軸に攻撃に力を入れる済美に対し、ディフェンスラインが見事な連係で突破を許さず、ボールを奪ってはボランチの高瀬が絶妙なポジショニングで攻守を繋ぎ、左の平岡、辻井と山本健のフィニッシャーが矢継ぎ早に済美ゴールに迫っていく。前半に辻井の折り返しを山本健が豪快に蹴り込んで先制をすると、後半は攻撃陣が爆発。小刻みなショートカウンターから、大量4得点を奪い、四国王者をねじ伏せた。

「この1年間でしっかりと全体の経験値を高めることができた。その中で選手個々が成長してきたし、原点回帰をしたことで、チームとしても一段上に上がることができた」

 来るべき本番の時に向け、野村監督は確かな手応えをつかんでいる。組織的に守って、しっかりとパスをつなぎ、相手の弱点を突いていく堅実な作陽サッカーが今、完成形の時を迎えようとしている。本命なき群雄割拠の今大会において、渋い光を放つ作陽サッカーが、主役の座につく最大のチャンスを迎えていると言っても過言ではないだろう。

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント