市立船橋、団結力を武器に復権を期す=第90回高校サッカー選手権・注目校紹介 第1回

平野貴也

ターニングポイントとなった桐蔭学園戦

市立船橋は主将・和泉(写真)を中心に、団結力で選手権優勝を狙う 【平野貴也】

「選手権に強い市船」の復活をかける。

 現在JFA(日本サッカー協会)ユースダイレクターを務める布啓一郎氏が一時代を築いて退任したのが2003年3月。石渡靖之前監督が翌年度(第83回大会)にチームを準優勝に導いているが、その後は3年連続して県大会で敗退した。4年ぶりの出場となった3年前の第87回大会では初戦で姿を消している。その間にも高校総体では2007、08、10年度と3度の優勝を果たしており、決してチームレベルが下がったわけではないが、選手権では元気がなかった。今季は、布氏の教え子で市立船橋が1994年度の第73回大会で初優勝を果たした時のメンバーである朝岡隆蔵氏が監督に就任。「市船は市船らしくありたい。負けていい試合はない」とプライドの復活を押し出してチーム作りに励んできた。

 今季のチームは元々、攻撃力に定評があった。昨季の高校総体で得点王に輝いたFW和泉竜司はゲームメークとフィニッシュの能力を兼ね備える。ほかにも長身FW岩渕諒、無回転FKを放つ菅野将輝、小柄な高速ドリブラー杉山丈一郎、期待の2年生MF宇都宮勇士とアタッカーは豊富だ。プリンスリーグ関東1部は開幕戦(東日本大震災の影響で第3節からスタート)で八千代に4−0と大勝すると、3勝1分けの好スタートを切った。しかし、好調は長く続かず5戦目からは4連敗。課題を突き付けられた4敗目がターニングポイントとなった。

 後に高校総体王者となる桐蔭学園を相手に先制したが押し返され、終盤の連続失点で逆転負け。試合後のロッカールームでは、選手同士が激しく言い合った。MF池辺征史は「(和泉)竜司が『なんで残り数分で集中力を保てなかったんだ』と怒ったら、守備陣がみんなで『こっちはずっと耐えていたんだから、お前が責任持って点を取ってこい』と言い返した。あの時はエゴとエゴとのぶつかり合いでした。試合に負けた悔しさと、キャプテンとしての責任感で竜司が泣きながら怒っていた。あいつが泣くのを見たのは初めてだったかもしれない。でも、あれからはみんながチームとして勝つためにどうするべきかと話し合えるようになった」と、バラバラだった当時の様子を振り返った。

決勝戦前のロッカールームでも涙が

全国大会出場を決め、涙を流しながら喜ぶ選手たち。勝利の裏には強い結束力があった 【平野貴也】

 朝岡監督にとっても決断を下す試合となった。「率いるチームが市立船橋じゃなければ、もっと攻撃に磨きをかけたと思う。でも、このチームは勝たなければいけない。中盤の選手が守備をしなさすぎた。特にサイドには運動量を求めた」と守備改善に着手。すると、両サイドがどん欲にボールを追い、センターハーフがバランスを取ってスライドして中盤でボールを奪う守備は、弱点補強にとどまらずにこのチームの武器となった。高い位置でボールを奪うことで、自慢の攻撃力を生かす場面も増えた。千葉県予選の決勝では、近年成長が著しい流通経済大柏と対戦。徹底した守り合いに耐え、昨季は公式戦で4度も負けた相手から延長戦でゴールを奪って全国大会の切符を手にした。敵将・本田裕一郎監督も「市立船橋は、シーズンの初めは守備が良くないなと思ったけど、良いチームになったね」と相手の変ぼうぶりに驚きを隠さなかった。

 チームの一体感も夏とは雲泥の差だった。試合後のベンチ前は、誰が出場選手か分からないほど入り乱れた。何度も抱擁が交わされ、口々に「ありがとう!」と同じ言葉を叫んだ。かつてエゴに走った選手の姿がなかったのは、勝ったからというわけではない。試合前のロッカールームにも涙があった。主将の和泉は「泣きながらだったから全部は聞き取れなかったんですけど、(準決勝の負傷により欠場した)池辺が『自分の分まで戦って、全国に連れて行ってください』って言った時には、僕も泣いてしまいました。心から応援するということを話してくれて、絶対に勝つという気持ちになった。昨年度の決勝では流経の気迫を感じたけど、今回は気持ちを強く持つという部分で相手を上回れたと思う」と、勝利の裏に11人だけではない結束の力があったことを明かした。

 1年間、ピッチの中でも外でも市立船橋は強さを増してきた。復活を期す選手権で、その成果を見せる。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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