弱点克服に励む迫田が東レ優勝の立役者に=女子バレー皇后杯

田中夕子

トヨタ車体を下し、4大会ぶり4度目の優勝を飾った東レ 【坂本清】

 バレーボールの皇后杯は18日、東京体育館で決勝を行い、女子は東レが、3大会ぶりの頂点を狙ったトヨタ車体を3−1(21−25、27−25、25−21、25−23)で下し、4大会ぶり4度目の日本一を決めた。

 前回の皇后杯、東レは2セットを先取しながら逆転負けを喫した。リベンジを誓った今大会は、「絶対に優勝しよう」と高いモチベーションで迎えたが、決勝戦ではトヨタ車体に1セットを先取された。

 東レは木村だけでなく荒木絵里香、迫田さおり、中道瞳など代表組がコートに並ぶ。「順当に行けば東レが勝つだろう」という前評判も加わったせいか、トヨタ車体の勢いに東レが押されるたび、スタンドの観客にもいくばくかの動揺が走った。

 果たして、コートの中は。

 迫田はこう言った。

「去年の試合、悔しさが頭の中によぎりました。だからこそ、絶対に負けたくないし『最後の1点まで集中しよう』と自分に気合を入れました」
 まさに、有言実行と言うべきか。チーム最多61本のスパイクを放ち、50%を越える決定率を残した迫田が、勝利の立役者となった。

『人生初』のサーブレシーブ練習に励む迫田

人生初のサーブレシーブ猛特訓に励む迫田さおり。決勝で大活躍し、勝利の立役者となった 【坂本清】

 11月に開催されたワールドカップ(以下、W杯)最終登録メンバーに選出されながらも、レギュラーの座は江畑幸子(日立)に譲る形になった。「まだまだ私はヘタクソなので…」と謙遜(けんそん)しながらも、江畑の活躍に刺激されるたび、内心には悔しさも抱いた。

 目標としていたW杯でのロンドン五輪出場権を逃したため、全日本としては5月の最終予選(日本開催)で五輪出場を決めなければならない。所属チームに戻った代表選手たちは、ただチームの勝利を目指すだけでなく、各々の課題やテーマに即したレベルアップを誓う。

 そして迫田には「攻撃力の向上」に加え、もうひとつの課題が突き付けられた。

 サーブレシーブだ。

 たとえば昨年までならば、木村とセッター対角に入る外国人選手がサーブレシーブを担い、迫田は攻撃に専念できる環境にあった。しかし今季、東レが獲得したフリール・マノンはオランダ代表ではセッター対角に入る選手であり、サーブレシーブには参加しない。
 これまでのように「攻撃だけで貢献できればOK」ではなく、「サーブレシーブもできないと試合に出場できないかもしれない」という状況に、迫田は直面することとなった。
 セッターの中道からは「Aパス(※セッターが動かずにトスアップできるサーブレシーブ)を返さなくていいから、面だけでもボールに合わせて、上にボールを上げてくれればいい」と言われるが、人生初となるサーブレシーブ猛特訓が続く今も、まだまだ合格点どころか及第点にも程遠い。

 欧州予選開催中にマノンがケガをし、状態が万全ではないこともあり、リーグ開幕と皇后杯は高田ありさがセッター対角に入った。菅野幸一郎監督が「今大会のMVPをあえて1人挙げるならば高田」と言ったように、攻守に渡って高田の献身的なプレーが、迫田を攻撃に専念させ、木村の負担を軽減させた。
 しかし菅野監督が「今後はマノンを活躍させられる環境をつくりたい」と公言していることから、このままの布陣で戦うことは考えにくい。高田の入ったポジションにマノンが入ると、必然的に、迫田がサーブレシーブ布陣に組み込まれることとなる。

犠牲と献身がチーム力を支える

W杯最終登録メンバーから外れた悔しさを胸にチームで活躍する濱口華菜里 【坂本清】

 とはいえ、サーブレシーブだけに専念させて「(レシーブが)返らない」というストレスから攻撃力をつぶしてしまうわけにはいかない。そこで全体をカバーする役割を担うのが、リベロの濱口華菜里だ。

 「リオ(迫田)には正面に来たボールだけ拾ってもらって、あとはサオリ(木村)と私がカバーするというのを決まり事にしています。でも他チームはサオリの攻撃力を封じるために、サオリも狙う。リオだけじゃなくサオリの負担も減らせるように。コートの半分以上は私が拾うつもりで何とかしてあげたいし、やらなきゃいけないんです」(濱口)

 皇后杯決勝の第2セットでも、こんな場面があった。

 18−18、迫田のサーブ時に菅野監督は高田に代えて、前衛に高さのあるマノンを投入。サイドアウトで19−18とし、サーブ権を取ったトヨタ車体のサーバー、眞恵子は当然迫田を狙う。そこをカバーし、濱口が中道に返す。荒木のクイックが決まり再び19−19とすると、その後も迫田のレシーブ範囲を濱口がさりげなくカバーし、レシーブでつないだボールを木村が後衛の迫田にトス。得意のバックアタックを2本続けて決め、トヨタ車体を突き放した。

 昨秋の世界選手権で濱口は14名に選出されながら、今秋のW杯は最終登録メンバーから漏れた。

 迫田を生かすため、木村を生かすためとはいえ、2人でバレーはできない。時にはさまざまな犠牲や献身が、チームを支える大きな力に変わる。皇后杯での4年ぶりの優勝は、東レにとってまさにそんな「チーム力」を存分に発揮した末に得た勝利だった。
 
 これでシーズンが終われば大団円となるのだが、リーグはまだ開幕したばかり。今は「チームに支えてもらっているから何とかできている」という迫田にとって、3回戦総当たりのリーグではおそらく、想像以上の困難に見舞われる時も来るだろう。

 果たして、どれほどの進化を遂げられるのか。

「新しいことをするのは大変だけど、今まで自分が持っていなかったものを増やせることは、マイナスではなく絶対プラスになる。もし崩れても『二段トスは全部自分が決める!』と思いながら、前向きにチャレンジします」

 成長の証は、3月のV・プレミアリーグファイナルラウンド、そして5月の最終予選できっと明らかになるはずだ。迫田が伸びれば伸びた分、東レのタイトル獲得も、全日本女子のロンドン五輪出場も、どちらの可能性も一気に高まるのは言うまでもない。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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