バルサにとってメッシがすべてではない=小澤一郎のバルセロナ密着記

小澤一郎

トレーニングメソッドの背後にある人生哲学

バルセロナの練習はグアルディオラ監督の話を合図に雰囲気が変わった。「やる時はやる」というメリハリを感じさせる 【写真は共同】

 完全非公開の16日の練習後、グアルディオラ監督は来日後2度目となるオフを選手に与えた。17日13時半まで約24時間の自由時間を与えられたチームの中には、またもや横浜や東京の繁華街に繰り出し、買い物や食事、観光を楽しんだ選手もいた。プジョルは16日夜に自身のTwitterアカウントで「銀座に向かう途中の地下鉄」というツイートと共に地下鉄内でセスク、フォンタスと映る写真を公開して話題をさらった。また、ピケはお忍びで来日中の恋人で歌手のシャキーラさんと一緒に過ごしたという。

 来日当初から取り上げてきたペップ流の調整法はもし結果が出なかった時には、「大事な試合前に遊ばせているからだ」と批判されかねない。しかし、17日の練習を見てもグラウンド到着後、おのおのにボールで遊ぶ選手たちは、グアルディオラ監督が集合をかけ少し話をしたのを合図にピリッとした雰囲気に変わっていく。冒頭15分のみの公開であったため、ボール回しの途中でグラウンドを出ることになったが、多少の笑顔や笑い声はあったとはいえ、「やる時はやる」というメリハリを感じる練習の入り方であった。
 繰り返しの主張になるが、バルセロナが来日して注目が集まる今だからこそ、彼らのトレーニングメソッドの背後にある「成功するためにはよく働き、よく休む」という人生にも通じる哲学を参考にしていきたい。

メッシが言葉を発しない状況はチャンス

 さて、決勝の見どころとして日本のみならずスペインでも盛んに報じられているのが、「メッシ対ネイマール」という構図。世界が注目するバルセロナとサントスの両スター選手に注目が集まることは当然であるし、メッシやネイマールの個人技、得点に直結するスーパープレーを見てサッカーというスポーツに興味を持ってくれる人が現れるならば積極的に取り上げることも方法の1つだと、わたしは肯定的にとらえている。
 特に今回のバルセロナの来日は、日ごろサッカーに触れないような人にもチームとしての強さ、選手個々のすごさが漠然とであっても伝わる機会となっているように感じるし、それは「少しでもバルサを見たい、バルサに近づきたい」という思いで、一般公開が一切ないにもかかわらず、熱心に練習場に足を運ぶファンの多さを見ていれば分かる。

 実は今大会に入って、メッシは一度も会見やミックスゾーンに姿を現していない。それが本人の意向なのか、クラブからのプロテクトなのかは分からないが、個人的にはこの状況もチャンスではないかと感じている。これは自戒の念を込めてでもあるのだが、メッシのプレーや言葉を借りなければバルセロナのサッカーの強さ、すごさを伝えられないようではメディアの人間として失格ではないか。
 バルセロナが「メッシに自由にプレーしてもらうため」に戦術を組んでいることは1つの要素としてはあるが、バルセロナにとってメッシがすべてではない。今のペップ・チームにはメッシという個を上回って余りあるだけの組織として、コレクティブとしての魅力や緻密な戦略、戦術がある。

 メッシ、ネイマールといった個の技、プレーに注目しても十分楽しめる決勝にはなると思うが、バルセロナ、サントスが突出した個をどう生かすのかという攻撃コンセプト、どう封じるのかという守備コンセプトを試合において見ていくことで、この決勝は個人だけをフォーカスする見方よりも数倍楽しめるはず。
 わたしはバルサ密着中であったため、本日のサントスの記者会見は取材できなかったが、くしくもネイマールの「明日はサントス対バルセロナ。個人の対決ではなくチームの対決だ」という言葉が明日の決戦の見どころを誰よりも的確に示している。バルセロナとサントス、メッシとネイマールという組織としても、個としても最高の対決だからこそ、明日は「サッカーは11人で戦うスポーツ」という本質をピッチ上から見いだしてもらいたい。

<了>
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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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