IDでもっと便利に新規取得

ログイン

決勝に向けた合言葉「ビジャのために」
小澤一郎のバルセロナ密着記

悲しみのファイナリスト

バルセロナは「ビジャのために」という合言葉を胸に秘め、決勝に挑む
バルセロナは「ビジャのために」という合言葉を胸に秘め、決勝に挑む【写真:AP/アフロ】

「ビジャのために」――16日付の『スポルト』紙にはダビド・ビジャがけがをした瞬間の写真とともに今のバルセロナの心情を的確に表すこの見出しが掲載されていた。15日のクラブワールドカップ(W杯)準決勝・アルサッド戦の前半35分、イニエスタからディフェンスラインの背後に出るパスを受けたビジャは、相手DF2人と対峙(たいじ)しながらも、ペナルティーエリア内に入りシュートを試みる。しかし、大きく弾んだボールをうまくヒットできず着地の際に左足を負傷した。


 ビジャ自身、すぐに骨折を理解したようでリプレー映像でもあった通り、周囲に対して(骨が)折れたというジェスチャーを発信している。試合後、バルセロナはクラブの公式ホームページでけい骨の骨折と全治4〜5カ月であることを発表した。また、手術は本田圭佑の手術も担当するなど、世界的なひざの名医でスポーツドクターのラモン・クガット医師のチームが執刀することも即座に決まった。すでにビジャは帯同中のメディカルスタッフらとともに16日午前の便で日本を出国しており、16日中(現地時間)にバルセロナに到着する予定となっている。


 ビジャにとってはタイミングも運も悪かった。『マルカ』紙が「ビジャ売却へ」というニュースを大きく報じたのは準決勝前日の14日で、その内容はレアル・マドリーとの“エル・クラシコ”(伝統の一戦)でも控えに甘んじたビジャの状況から「プレミア移籍もある」というもの。信ぴょう性は低いと思うが、ビジャ自身が今の状況に満足しておらず、スタメン出場を果たした準決勝でいつも以上にアピールとゴールを狙っていたのは間違いない。その矢先の大けがだけに本人の悔しさ、無念は容易に想像できる。グアルディオラ監督もアルサッド戦後の会見で「うれしさも、何の気力もない」という表現で心境を説明していた。


 しかし、ミックスゾーンでメディア対応した選手たちからは次々に「ビジャのために」という言葉が出ていた。また、ソーシャルメディア上ではチームメイトのプジョル、ピケが「アニモ(頑張って)」の声明を出し、バルセロナの選手のみならずセルヒオ・ラモス(レアル・マドリー)、アグエロ(マンチェスター・シティ)、ロベルト・ソルダード(バレンシア)、フアン・マタ(チェルシー)らも激励のメッセージとともにいち早い回復を願う気持ちを表した。スペイン代表のデル・ボスケ監督も「悪いニュースだ。特にユーロ(欧州選手権)に向けては。5月15日に登録メンバーを発表するが、それまで待ちたい」と珍しく動揺が伝わるようなコメントを出している。


 けが直後にスペインメディアの取材に応じたビジャの父親のホセ・マヌエル・ビジャ氏によれば、ビジャは落ち着いた様子で家族に対して「絶対に早く回復してみせるし、ミュンヘンでのチャンピオンズリーグ(CL)決勝でプレーする」と前向きなメッセージを送ったのだという。ビジャと親しい記者も「励まそうと思って電話を掛けたのに、逆にこっちが励まされた。彼のメンタリティーの強さには驚かされたし、彼なら絶対に今季中にピッチに戻ってくる」と話している。


 順風満帆にタイトルを総なめにする「常勝軍団」のイメージが定着している“ペップチーム”ではあるが、昨季のアビダル、今季のティト・ビラノバに続き、今回は病気ではないものの、ビジャが大けがにより再び大きな困難を突きつけられた。エル・クラシコでアレクシス・サンチェスがセンターFWでプレーし、いいパフォーマンスを披露したとはいえ、ピッチ内外でチームのために行動できるプロフェッショナルな選手、また「チームのみんなに愛される選手」(グアルディオラ監督)の替えというのはそう簡単に見つからない。


 とはいえ、裏を返せばピッチ上でのエンターテイメント性とともに、ピッチ外でこうしたヒューマンドラマがあるのも今のバルサの魅力。昨季のCL決勝でビッグイヤーを獲得した際、アビダルにトロフィーを掲げる役目を任せたように、すでにチームにはミュンヘンでビジャがビッグイヤーを掲げる姿が選手間で共有されている。まずは目の前に迫った「クラブ世界一」のタイトルを懸けたファイナルであるが、悲しみのファイナリストは今「ビジャのために」という合言葉を胸に秘めながら、チャンピオンとしての喜びを得る戦いに挑もうとしている。


<了>

小澤一郎
小澤一郎

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

スポナビDo

新着記事一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント