決勝に向けた合言葉「ビジャのために」=小澤一郎のバルセロナ密着記
悲しみのファイナリスト
バルセロナは「ビジャのために」という合言葉を胸に秘め、決勝に挑む 【写真:AP/アフロ】
ビジャ自身、すぐに骨折を理解したようでリプレー映像でもあった通り、周囲に対して(骨が)折れたというジェスチャーを発信している。試合後、バルセロナはクラブの公式ホームページでけい骨の骨折と全治4〜5カ月であることを発表した。また、手術は本田圭佑の手術も担当するなど、世界的なひざの名医でスポーツドクターのラモン・クガット医師のチームが執刀することも即座に決まった。すでにビジャは帯同中のメディカルスタッフらとともに16日午前の便で日本を出国しており、16日中(現地時間)にバルセロナに到着する予定となっている。
ビジャにとってはタイミングも運も悪かった。『マルカ』紙が「ビジャ売却へ」というニュースを大きく報じたのは準決勝前日の14日で、その内容はレアル・マドリーとの“エル・クラシコ”(伝統の一戦)でも控えに甘んじたビジャの状況から「プレミア移籍もある」というもの。信ぴょう性は低いと思うが、ビジャ自身が今の状況に満足しておらず、スタメン出場を果たした準決勝でいつも以上にアピールとゴールを狙っていたのは間違いない。その矢先の大けがだけに本人の悔しさ、無念は容易に想像できる。グアルディオラ監督もアルサッド戦後の会見で「うれしさも、何の気力もない」という表現で心境を説明していた。
しかし、ミックスゾーンでメディア対応した選手たちからは次々に「ビジャのために」という言葉が出ていた。また、ソーシャルメディア上ではチームメイトのプジョル、ピケが「アニモ(頑張って)」の声明を出し、バルセロナの選手のみならずセルヒオ・ラモス(レアル・マドリー)、アグエロ(マンチェスター・シティ)、ロベルト・ソルダード(バレンシア)、フアン・マタ(チェルシー)らも激励のメッセージとともにいち早い回復を願う気持ちを表した。スペイン代表のデル・ボスケ監督も「悪いニュースだ。特にユーロ(欧州選手権)に向けては。5月15日に登録メンバーを発表するが、それまで待ちたい」と珍しく動揺が伝わるようなコメントを出している。
けが直後にスペインメディアの取材に応じたビジャの父親のホセ・マヌエル・ビジャ氏によれば、ビジャは落ち着いた様子で家族に対して「絶対に早く回復してみせるし、ミュンヘンでのチャンピオンズリーグ(CL)決勝でプレーする」と前向きなメッセージを送ったのだという。ビジャと親しい記者も「励まそうと思って電話を掛けたのに、逆にこっちが励まされた。彼のメンタリティーの強さには驚かされたし、彼なら絶対に今季中にピッチに戻ってくる」と話している。
順風満帆にタイトルを総なめにする「常勝軍団」のイメージが定着している“ペップチーム”ではあるが、昨季のアビダル、今季のティト・ビラノバに続き、今回は病気ではないものの、ビジャが大けがにより再び大きな困難を突きつけられた。エル・クラシコでアレクシス・サンチェスがセンターFWでプレーし、いいパフォーマンスを披露したとはいえ、ピッチ内外でチームのために行動できるプロフェッショナルな選手、また「チームのみんなに愛される選手」(グアルディオラ監督)の替えというのはそう簡単に見つからない。
とはいえ、裏を返せばピッチ上でのエンターテイメント性とともに、ピッチ外でこうしたヒューマンドラマがあるのも今のバルサの魅力。昨季のCL決勝でビッグイヤーを獲得した際、アビダルにトロフィーを掲げる役目を任せたように、すでにチームにはミュンヘンでビジャがビッグイヤーを掲げる姿が選手間で共有されている。まずは目の前に迫った「クラブ世界一」のタイトルを懸けたファイナルであるが、悲しみのファイナリストは今「ビジャのために」という合言葉を胸に秘めながら、チャンピオンとしての喜びを得る戦いに挑もうとしている。
<了>
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