世界のトップスケーターが集まる、米国の“チーム佐藤”=佐藤有香&ジェイソン・ダンジェン夫妻インタビュー

野口美恵
 アメリカのデトロイトに拠点を構え夫妻で指導にあたる佐藤有香とジェイソン・ダンジェン。全米トップを争うジェレミー・アボットとアダム・リッポンをはじめ多くの世界トップスケーターを抱え、今季からは今井遥(日本橋女学館高)も加わった。2人の指導方針、指導環境について聞いた。

リッポンとアボット、全米トップ2人が同門に

ジェレミー・アボット(米国)はバンクーバー五輪シーズンを前にコーチを佐藤有香に変更。全米選手権2連覇を果たし、五輪代表となった。 【Getty Images】

――有香&ジェイソンご夫妻のもとに、世界のトップスケーターがひしめき合っていますね。

有香 本当に一人ずつ個人差があって、不思議なくらいに特徴のあるスケーターたちが集まっていると思います。恵まれたことですね。

――今年からアボットの最大のライバルであるリッポンが加わりました。

ジェイソン アダムは6月にプログラム作りに来たのが最初でした。そして、もっと一緒にやりたいという事になって。でももともと教えているジェレミーは、ほとんど同じ成績のアメリカでのライバルなので、彼に相談する必要がありました。

有香 そこが一番難しいところで、非常に悩みました。まずジェレミーとジェイソンと私、3人でミーティングをして、私はジェレミーを優先する、アダムはジェイソンがヘッドコーチになる、それにジェイソンはジェレミーを今までと変わりなく手伝うということを伝えました。

ジェイソン それに、もしお互いがライバルだとしても、お互いが高め合う方に意識を変えて、尊敬し合い助け合えれば良いだろうと考えました。実際今はちゃんと良い環境で協力し合って、お互いがアドバイスしたり褒め合ったりしています。

――実際、アボットは良い成績を出していますね。

ジェイソン 彼の今シーズンのゴールは、実力を出した滑りをちゃんと見せること。GPファイナル進出も決まったし、やっと調子が上がってきました。彼は2010年のオリンピック前に、精神面と身体面、両方のハードなトレーニングによってジャンプは完成しているんです。

有香 ジェレミーは演技、芸術的にも整っています。誰にとっても見本になる選手だと思います。

今井遥は「教えられない事を全て持ち合わせている選手」

今シーズンから米国に拠点を移した今井遥。スケートアメリカではダンジェンが、ロシア杯では佐藤有香が付き添った。 【Getty Images】

――今井遥も東京からデトロイトのお2人のもとへ、9月から移りました。

ジェイソン 遥は非凡な才能がある。8月はケガで休んでいたが、これからシーズン後半に向けてどんどんジャンプの種類も増やしていきます。まだ18歳と若いので、まだ色々なことを吸収できるでしょう。ジャンプはもっと良くなる部分がいっぱいあるし、スピンは本当に素晴らしいです。

有香 彼女は、コーチが教えられないものは全て持ち合わせているという、すごい才能に恵まれた選手。感覚は鋭く、センスも良く、そして何でもポジティブに変えていく能力があって、すごくユニークな子です。いつも素で、自分の世界にいて、自分の感覚のみでスケートをやってきています。去年は長久保裕先生にお世話になっていましたが、一箇所に落ち着いて習ってきていないですから。若くてまだ手遅れじゃないので、選手としての教育、演技者としての教育をしっかりやりたいです。

――今はどちらがメインコーチなのでしょうか?

有香 遥は今はまだ二人で見ていますが、ジェイソンとのコネクションが良い様にも感じています。選手はそれぞれ波長があって、私とジェイソンが同じこと言っても、相手によって把握や理解の仕方も違うんです。

――今後はどんな指導を?

有香 これまでは生活環境が変わって、慣れるのに必死でしたのでマイペースにやってもらっていました。ケガで休んで9月まで氷に戻れず、すごく遅れたスタートを切ったシーズン。ジャンプのフォーム(トウの突き方)は、ケガをした理由でもあるので修正していかないと同じ結果になってしまいます。ただ、若いし勢いがあるので、やらなければならない事を一つずつやって、気付いたら上まで行っていたという事もあります。やる課題が多すぎるのですが、基本に忠実に、焦らずに、できるだけの事を教えていきたいです。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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