J王者の誇りを持ってクラブW杯の大舞台へ=北嶋秀朗と柏レイソルが歩んできた道
古巣・柏への復帰とかつてない苦しみ
北嶋(右)にとってクラブW杯は久しぶりの国際舞台。J王者の誇りを胸に、「魂を込めて戦う」と強い意気込みを見せる 【Getty Images】
石崎体制以降、キャプテンを務める大谷秀和は、この時のクラブの大きな変化について、このように証言する。
「05年は力のある選手がそろっていたけど、サポーターを含めてひとつになっていなかった。だけど石崎さんは、チームとして戦うことの大切さを教えてくれた。キタジさん、南(雄太)さんたちが助けてくれて、本当にいいチームになったと思う」
とりわけ、北嶋の貢献度はやはり大だった。再び柏のシンボルと位置づけられたことで、本人の意欲も一気に高まった。
けれども、思うように結果が出ない。ゴール数は06年の7得点が最高で、07と08年は1得点、09年も4得点と伸び悩んだ。柏が09年に2度目の降格を強いられた時などは「自分に何ができるのかを考えたい。レイソルを守りたい」と一身に責任を背負ったものの、10年は一段と苦境に追い込まれる。開幕から試合に出たり出なかったり。5月から8月にかけては、ベンチにさえ入れないことが増え、竹本GMらは「このシーズン限りの契約打ち切り」を決断しようとしていた。
「今まで見たことのない、ホントのホントのどん底だった。自分がここで負けるのか、自分自身に勝てるのか、この状況を何とかできるのかと問いかけた時期でもありました。自問自答を繰り返す中で『おれは今までやってきたサッカー人生のためにも、絶対負けたくないんだ』という怒りのようなものが沸いてきたんです。その怒りのエネルギーをサッカーにフルにぶつけたことで、自分のスイッチが入ったのかな……。あの苦しみが、僕を復活させてくれたんだと思いますね」
ネルシーニョ監督も絶賛「彼は努力することを忘れない人間」
それが、昨年9月19日のジェフ千葉戦からのゴールラッシュにつながる。終盤戦の4得点でJ1昇格争いに大きな勢いを与えた北嶋を、ネルシーニョ監督も高く評価。今季は序盤戦から戦力に加えた。4月から5月にかけて、3試合4得点をたたき出した時期には「彼は自分のため、チームのために努力することを忘れない人間だ。リーダーシップや人間性もチームにいい影響を与えている」と絶賛。当の北嶋も、指揮官の後押しに深い感謝の言葉を語っている。
「ネルシーニョ監督には『勝つことで威厳が上がるし、勝つことでオーラが出るし、勝つことでリスペクトされる。だから勝たなきゃいけないんだ』と強く言われました。僕で言えば、ゴールを取ることが勝利に直結する。それを学ばせてもらったのは大きい」
布監督とともに、市立船橋の指導にあたっていた石渡靖之前監督は「北嶋は高校生のころから人一倍、努力できるやつだった。そのメンタリティーが、ベテランになってからの飛躍につながったんじゃないかな」とコメントしている。確かに、フィジカル的に衰える30代半ばになっても成長を続けるためには、強じんな精神力が不可欠だ。同期の大野が引退し、高校時代からのライバルで友人の中村俊輔が徐々にパフォーマンスを落とす中、さらに輝きを増す北嶋は単なるアイドルではなかった。それを今季の彼は、あらためて実証したのではないだろうか。
クラブW杯は北嶋のキャリアの集大成となるか?
「Jリーグの代表として戦う大会なので、しっかり魂を込めて戦いますし、結果を求めて優勝をしっかり求めてやっていきたい」
そう、強い意気込みを見せる北嶋。3日の浦和戦に出場していないだけに、田中や工藤よりコンディションがいいのは大きなアドバンテージだ。フェアな視点に立ち、調子の良い者から起用するネルシーニョ監督が、33歳のベテランFWに出場機会を与える可能性は大いにありそうだ。
20代のころに果たせなかった、国際舞台での活躍を北嶋は虎視眈々(こしたんたん)と狙っている。そのためにも絶対にゴールがほしいところ。ベテランならではの「味」と「深み」を、北嶋にはしっかりと示してもらいたい。
<了>
(協力:FIFAクラブワールドカップ事務局)