唯一の日本人選手としてのクラブW杯=岡山一成、UAE2009大会を振り返る

宇都宮徹壱

痛感させられた世界との差

浦項は3位決定戦でアトランテをPK戦の末に下し、世界3位に輝いた。岡山(中央)はキャプテンとしてフル出場 【写真:ロイター/アフロ】

――クラブW杯での浦項は、アフリカ代表のマゼンベ戦には2−1で勝利したものの、この時は岡山さんは出番なし。続く南米代表のエストゥディアンテス戦でもベンチスタートでした。この大会では、基本的にサブという扱いだったのでしょうか?

 契約した時からレギュラーは決まっていて、ACLと(Kリーグの)併用でという形で契約してもらったので、僕はバックアップという形でした。それに、4バックのうち(韓国)代表が2人いたんです。キム・ヒョンイルとファン・ジェウォン。この2人から、ポジションを取ってやろうなんて思えなかったです。お前らが(試合に)出てくれと。出た方が勝てるからって(笑)。それでも、あのエストゥディアンテスにはチンチンにやられたんですよ。

――浦項の3選手が退場した、あの試合ですね。スコアこそ1−2でしたが、記者席から見ていて実力差はかなり感じられました

 あんな浦項、見たことがなかったです。アジアでもほとんど良い戦いをしたし、アフリカ代表にも勝ちました。こうなったら南米代表にも勝って、決勝でバルセロナとやって一泡吹かせるくらいの自信で行ったんです。それが何もできなかった。
 とにかく、一歩が全然違うんです。トラップして出してとかの一歩が。浦項は代表の2人以外は若い選手が多かったので、みんな一生懸命頑張っていました。ただ、世界というものを知らなかったんです。クラブW杯という世界を。アジアで戦っていた感覚でいくから、遅れてしまってファウルになって、それでカードをもらってしまう。

――そういえば、GKの一発退場を除いて、フィールドプレーヤーの2人はイエロー2枚での退場でしたね。岡山さんの出番は後半13分から。キャプテンのファン・ジェウォンが退場した直後でした。ベロンをマークしていましたが、どうでしたか?

 1人だけ違っていましたね。周りが速い選手が多い中、ベロンだけがゆったりプレーしていて、それが攻撃のアクセントになっていたんです。それでも何とかマークしようとしていたら、また1人退場になって。「もうあかん!」思っていたら、今度はGKが退場になって。

――その直後、岡山さんがグローブをはめようとしていましたよね? GKをやる気が満々だったんでしょうか?

 ここでGKをやれば、オイシイじゃないですか(笑)。そしたら別の選手(デニウソン)に取られてしまったんです。

――そんなにGKをやりたかったですか?

 やりたかったですねえ。そうすれば全ポジションをやったことになるので。僕、FWもDFも、ボランチもトップ下もやっていたんですが、GKだけなかったので。

――それをクラブW杯という舞台で達成できたら、最高でしたよね(笑)

 もうちょっと、強く言っていれば良かったなあと(笑)。

元「世界3位」としての誇り

――今度のクラブW杯では、残念ながらJクラブはアジアチャンピオンとしては出場できません。ただし、今回は日本開催なので、出場国枠として1チーム出場できます。果たして、岡山さんの古巣の柏か、あるいは名古屋かガンバか……(注:インタビュー時点では、まだ優勝チームは決まっていなかった。最終節に柏の優勝が決定)。とりあえず“世界3位”を経験した1人として、何かアドバイスすることがあるとすれば、どんなことでしょうか

 柏はとりあえず置いておいて、名古屋さんとガンバさんは、僕が偉そうにどうこう言えるチームじゃないです。それに、僕が上から目線だったら「何を偉そうに」となるじゃないですか。こう見えても僕、空気が読める人間なんです(笑)。ここは大事なところですよ。空気が読めない人間は、チームでいい雰囲気が作れないですから。

――なるほど(笑)。ではもし柏が優勝して、クラブW杯に出場することになったら?

 僕が練習場に行って、いろいろアドバイスをしに行かないといけないかなと。「そもそもクラブW杯とはだな」という感じで(笑)。キタジ(北嶋秀朗)とか、タニ(大谷秀和)とか近藤(直也)とか、(一緒にプレーした選手も)いますしね。

――柏が出場して、それでもピッチリポートの依頼がなかったら(笑)、2年前の天皇杯決勝のように、またスタンドで応援しますか?

 どうだろうなあ。結局、自分が3位になった経験がありますからね。なので決勝に行って、バルサとやることになったら応援しますね(笑)。

――今年のクラブW杯は楽しみですか?

 いやあ、今は(札幌の)昇格の事しか頭にないですね。

――最後の質問です。2年前のクラブW杯で、岡山さんは唯一の日本人として3位のメダルを獲得しました。この経験は、これまでの岡山さんのサッカー人生の中で、どんな意味をもたらしたのでしょうか?

 誇りですね。あれを成し遂げたということに、今も誇りを感じています。正直に言って、フィジカル的にはどんどん衰えていっていますし、いずれはサッカーを引退する時が来ます。もし、あの経験がないまま引退していたら、「(周囲は)見る目がない」とか「Jリーグが何だ」とか、自分の非力さを棚に挙げてやさぐれていたと思うんですよ。でも今は、アジアでチャンピオンになって、さらにその上のクラブW杯で3位になった人間であることを、どんな人に対しても誇りをもって言えますね。だって、あの苦しい中から這い上がって、世界3位になったんですから。

<了>

※編集部よりお願い

 取材後、岡山選手から「どなたかクラブW杯での写真を譲っていただけないでしょうか」との依頼を受けました。ご自身は授賞式の写真やメッシ選手と握手した写真が手元にないことを、とても残念がっておられました。もし、09年に現地で撮影された方がいらっしゃいましたら、スポーツナビ編集部サッカー担当のツイッターまでご一報(@sn_soccer)ください。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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