愛工大名電・濱田ら甲子園スター候補が躍動=明治神宮大会・高校の部総括

松倉雄太

不祥事を起こした3年生は涙…光星学院が「恩返し」の初優勝

来年のドラフト候補として注目を集める愛工大名電高・濱田 【写真は共同】

 第42回明治神宮野球大会は11月23日から27日まで神宮球場で行われ、光星学院高(東北・青森)が初優勝を飾った。

 夏の甲子園準優勝から、主将となった田村龍弘や4番の北條史也(ともに2年)らが残った。3年生部員の飲酒が発覚し練習を自粛したため、新チームの立ち上げは全国で最も遅くなったが、一戦ごとにチームがまとまり見事に秋の頂点へ上りつめた。責任を感じ涙で謝罪したという選手も含め、3年生19人全員が新チームをサポート。田村主将は「3年生への恩返しは神宮大会を優勝すること」とチームをまとめあげた。
 制球に課題が残った金沢湧紀と城間竜平(ともに2年)の投手陣がもっと安定してくれば、来年は東北地区の悲願である甲子園初優勝を狙える力を秘めている。

140キロ台のストレートが魅力のドラフト候補・濱田

 準優勝に終わった愛工大名電高(東海・愛知)は、主将で4番の佐藤大将(2年)をケガで欠きながらも、機動力や小技といった伝統の攻撃スタイルで対戦相手を乱していった。
 来年のドラフト候補にも名前が上がるエース左腕・濱田達郎(2年)は県大会、東海大会と一人で投げ抜き、今大会も4試合をほとんど一人で投げ切った。140キロ台中盤の速球だけでなく、適度に力を分散させる考えたピッチングを披露。この夏の愛知大会で、4連投目となった決勝に先発できなかった悔しさを、夏以降の練習にぶつけた成果だろう。大会歴代2位となる40奪三振を記録したが、決勝で逆転負けを喫し「自分の力不足。決勝まで来ても、負けてしまったら意味がない」と手応えを口にすることはなかった。

 濱田が4試合、579球を投げたことに『ほかの投手にも経験を』という声が上がるが、疲れた状況で決勝を投げるのも、公式戦でしか体験できないこと。結果として負けて悔しさを味わい、勉強する。倉野光生監督の『濱田を大投手にしたい』という強い意志と期待が感じられた。

関東一の1年生・中村、鳥取城北・木下らバッテリーに逸材

 今大会出場校では、投手を生かす捕手が多く目立った。4強に残った鳥取城北高(中国・鳥取)の木下裕悟(2年)は、山木博之監督が「リードに口を出すことはない」と全幅の信頼を置いている。18イニングを投げた西坂凌、エースの平田祥真(ともに2年)を良くリードし、守備のリズムをつくった。

 鳴門高(四国・徳島)の日下大輝(1年)は、正捕手の丸宮太雅(2年)がケガのためマスクをかぶったが、自分の判断でエースの後藤田崇作(2年)の元に何度も駆け寄るなど、精神的に盛り立てた。
 ほかにも神村学園高(九州・鹿児島)の中野大介、浦和学院高(関東・埼玉)の林崎龍也(ともに2年)らも投手を献身的に支える場面が印象的だった。

 投手で来年が楽しみなのが関東一高(東京)の中村祐太(1年)。都大会決勝で帝京高を1安打完封したのが自信となっているようで、愛工大名電高を相手に2失点と素晴らしいピッチングを見せた。
 北照高(北海道)の三浦翔(2年)は北海道大会での登板は1試合だったが、今大会は2試合とも先発。得意のスライダーを生かしたピッチングが光った。敦賀気比高(北信越・福井)の山本翔太、智弁学園高(近畿・奈良)の小野耀平(ともに2年)も敗れはしたが、将来が楽しみである。

選手を戸惑わせたタイブレーク方式

 最後に今大会では高校野球で初めてタイブレーク方式(延長10回から1死満塁でスタート)が導入され、3試合がそれによって決着した。
 6月に行われた全日本大学選手権で節電対策として導入されたルールだったが、高校生にとっては初めてのことであり、戸惑いは隠せなかった。
 延長10回の攻撃に限っては、任意の打順でスタートするため、オーダーの提出と確認作業でかなりの時間が取られる。選手はその間を待つだけでなく、守備側は突然誰から始まるかを知らされる。光星学院高の金沢投手がボークを犯したのはその戸惑いの象徴である。タイブレークで敗れた神村学園高の中野捕手も、「守り方は難しかった」と心境を話してくれた。
 任意打順とするならば、先攻、後攻も決め直さなければ、公平性がなくなるのではないか。9回までつくりあげてきた試合の流れが壊されてしまう印象が残った。

 来年の大会や甲子園大会でタイブレークが採用されるかは決まっていない。ただ野球は『時間』という概念がなく、ストライクが入らなければ永遠に終わらないスポーツである。もし、採用されるのならば、タイブレークの方法を再考する余地がある。

 今シーズンの公式戦が終わり、シーズンオフを迎える。1999年以降、神宮大会高校の部に出場したチームは、必ず翌年の春か夏の甲子園で決勝まで進出している。昨年優勝した日大三高(東京)は春4強、夏優勝と、神宮大会での結果を自信にして甲子園での躍進につなげた。今年の10校がそれに続くのか、または出場できなかったチームが冬に力をつけて巻き返すのか。どちらにしても、シーズンオフの過ごし方が重要となってくる。

<了>
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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