大津祐樹、ドイツで目覚めたゴールへの貪欲さ=結果にこだわるドリブラーが関塚ジャパンの起爆剤に

元川悦子

ドイツで想像をはるかに超えるレベルに面食らう

ブンデスリーガでもデビューを果たすなど着実に成長。ハイレベルな選手たちから多くのことを学んでいる 【Bongarts/Getty Images】

 ちょうど同時期に浮上したのが、ドイツの名門メンヘングラッドバッハへの移籍話だった。ブンデスリーガ制覇5回を誇る古豪も、06−07シーズンには2部降格を強いられ、08−09シーズンの1部復帰後も毎年のように降格危機に瀕していた。それでもルシアン・ファブレ監督が指揮を執った2011年2月以降はカウンターサッカーを徹底して残留に成功した。前線4枚でアタックに行くスタイルをさらに推し進めるにあたり、今季開幕前には大津のような自ら打開できるタイプの若手を求めたのだろう。

「香川真司が活躍したことで、ドイツのクラブは23歳以下の日本人ドリブラーに注目している。ダメでも若ければ2部にレンタルで出すとか、他リーグに安く売るとかいろんな方法が考えられますからね。大津の場合も完全移籍でのオファーでした。ネルシーニョは『戦力としては残ってほしいが、本人が海外を選ぶなら仕方ない』という判断だった。大津がコンスタントに試合に出ていれば止めたかもしれないけど、今季は彼も難しい立場にいた。結果的に移籍を選んだのは良かったのかもしれません」と柏の竹本一彦GM(ゼネラルマネジャー)は移籍にまつわる事情を説明する。

 もはや日本に戻る場所はない。覚悟を持って異国に赴いた大津を待っていたのは、想像をはるかに超えたハイレベルな選手たちだった。4−4−2の左MFにはベネズエラ代表キャプテンのファン・アランゴがおり、右MFは若きドイツ代表MFマルコ・ロイスが陣取る。彼らの技術、強さ、迫力には正直、面食らうばかりだったという。
「マルコ・ロイスはメッチャうまかった。ボールの置きどころ、ドリブルのタイミング、パスとすべてにセンスがある。年齢は僕が1つ下だけど、同世代にもそれくらいうまいやつがいる。僕にとってはドイツに行って初めての衝撃でした。でも超えなきゃいけない壁。アランゴもそうだけど、ああいう中でレギュラーを奪えればもっとすごい選手になれる。そう思ったんです」と大津は渡独当初の驚きをこう表現する。

 それでも10月22日の第10節・ホッフェンハイム戦で待望のブンデスリーガデビュー。その後、3試合続けてベンチ入りするなど、大津は新天地の環境に適応しつつある。「コミュニケーションもノリと下ネタとジェスチャーで何とか。ドイツ語も極力勉強しています」と冗談交じりに言えるほど明るいキャラクターに加え、すぐ近くにいる香川や内田篤人、吉田麻也ら日本代表のアドバイスもプラスになっているようだ。吸収力が高くなければ、短期間でここまで目覚ましい変化は遂げられない。大津は海外向きの選手なのだろう。

「結果を出し続けて初めて這い上がれる」

 しかしながら、本当の勝負はここから。最大の武器であるドリブル突破はある程度、通じているというが、一番重要なゴールという結果にはまだ届いていないからだ。

「大津はボールテクニックは高いけど、ドリブル突破からのシュートをよくフカしていた。クロスに頭や両足を合わせるシュートもまだまだ。『そこは練習しなきゃね』と僕らもよく言ってました。彼は点取屋のようで、実はあんまりゴールを取っていない。フィニッシュを磨くことがドイツでもU−22代表でも極めて重要になってくると思いますね」
 古巣の竹本GMがこう突きつける課題を大津自身もしっかり理解している。
「ヨーロッパで成功するには絶対に結果を残さないといけない。ゴールに対してはすごく意識するようになりましたし、毎回結果を出し続けて初めて這い上がれると思います」

 さしあたって、バーレーン戦の得点は今後への大きな弾みをつける一発になった。ただ、本人はこれだけで満足していない。27日のシリア戦での連続スタメン、連続ゴールを思い描き、必死にコンディションを整えている。
 とはいえ、今回は山崎も万全の状態で挑んでくるだろうし、バーレーン戦でわずか20分程度の出場に終わった永井もリベンジを期している。「大津に限らず、前の選手でいつもポジション争いをしているから、今回は特別ってことはない」という山崎の達観ぶりは大津にとって脅威だろう。関塚監督が実績で勝る山崎をスタメンに戻し、大津をジョーカーに回す可能性も大いにある。

 役割は変わるかもしれないが、ゴールという結果を貪欲に目指さなければならないのは一緒だ。それがメンヘングラッドバッハでの立場を左右することになると彼自身、よく分かっている。
「向こうの監督からも出てくる時、『しっかりゴールという結果を残してこい』と念押しされました。まずは1ゴールしましたけど、もう1試合で2ゴールできればいい報告ができる。代表に協力してくれたのはありがたいことなんで、恩を結果で返したいですね」


 激しい意気込みを見せる大津がこれを機に一気に駆け上がり、ウインターブレーク以降、メンヘングラッドバッハでレギュラーを勝ち取るようなことがあれば、2〜3月の最終予選は招集不可能になるかもしれない。それはそれで関塚監督にとって頭の痛い問題だ。しかし、本人はとにかく目の前の結果にこだわるしかない。巡ってきた千載一遇のチャンスをモノにできるか否か。グループC首位決戦となるU−22シリアとの大一番で、大津祐樹の凱旋(がいせん)ゴールをぜひ見てみたい。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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