全日本女子、負けられない状況で流れを変えたひとつの決断=バレーW杯 

田中夕子

五輪出場権獲得はならなかったが、ブラジル、米国を倒して4位となった日本 【坂本清】

 日本戦の前に行われた中国vs.ドイツで中国がストレート勝ちを収めた瞬間、ワールドカップ(=W杯、11月4〜18日、東京など)で日本が3位以内に入る可能性は消滅していた。

 米国との試合前、真鍋政義全日本女子監督は選手たちに告げた。

「今日の試合を五輪へのセミファイナルだと思って戦おう。絶対に、勝って終わろう」

 今大会で3位以内に入れば、五輪出場権を得ることができる。重要な大会に臨むにあたり、日本チームはW杯や五輪、過去の国際大会でメダルを獲得したチームのデータを指標とし、本気でメダル獲得を狙っていた。

 結果は4位。

 大会直前に山本愛(JT)ら主力にケガ人が出たこと。勝負を賭けた大会だったにも関わらず、これが国際大会のデビュー戦とも言うべき若手がスタメンに名を連ねていたこと。世界ランキング(2011年10月2日付)1位のブラジル、2位の米国にストレート勝ちを収めたこと。これらのことを考えれば、日本の「定位置」となりつつあった国際大会での4位とはいえ、これまでとは様相は異なるのではないだろうか。

 だが、選手の反応は違った。米国戦の後、竹下佳江(JT)が言った。

 「試合直前でケガ人が出て苦しい状況ではありましたが、日の丸を背負っている以上は勝ちにこだわらないと。4位で手応えを感じるのではなく、結果を出したかったです」

今のチームで得点できる形を

チームの期待に応え、勝負どころでスパイクを決め続けた木村 【坂本清】

「個人としても、チーム全体もスタートが悪かったのが今でも悔やまれます」

 木村沙織(東レ)がそう振り返ったように、大会前半は課題ばかりが目立った。レシーブが上がっても攻撃につながらず、チャンスでミスが生じる。サーブで攻めなければならない場面でまたミスが続き、攻めるべきところで相手にサーブで攻め込まれる。勝機は幾度もあったにも関わらず、イタリア、中国戦ではこの負けパターンにはまり、選手たちは「もったいない試合をしてしまった」と口をそろえた。

 セルビア、ブラジル戦が含まれる第3ラウンドに向け、第1、2ラウンドはメダル獲得のために5連勝で、ともくろんだはずが、5戦を終えて3勝2敗。「3位以内」は早々に途絶えたかと思われた。
 
 そして、ひとつも負けられない状況を迎え、チームはひとつの決断を下した。

「エース勝負で行こう」

 昨秋の世界選手権(東京)では「サイドに攻撃が偏りすぎた」と真鍋監督も言っているように、困った時には木村、当たっていれば対角の江畑幸子(日立)、2枚エースで攻めるパターンはうまくはまれば奏功するが、相手にしてみれば「ここさえ封じれば勝てる」ポイントでもある。
 エース依存を脱却するために、今季はミドル、ライト、バック、至るところから同時に攻撃を仕掛けるスタイルを目指してやってきたはずだった。

 それでも再び「エース勝負」に立ち戻る。決して歓迎すべきスタイルではなくとも、そうしなければならない理由があった。

「今のチームで戦うならば、今のチームで得点できる形を取るしかないんです」(木村)

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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