中村憲剛、本田圭佑とのトップ下並存へ=背番号14のもたらす効果と課題を考える

元川悦子

ベテランの責任感と老練なプレー

本田(手前)がけがから復帰した時、中村(奥)との並存はかなうのか 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 ここで柏木陽介や長谷部がチャンスをモノにしていたら、中村の再招集はなかったかもしれない。けれども北朝鮮戦も、続くウズベキスタン戦も日本の攻撃は迫力を欠いた。かといって、本田の復帰にはまだまだ時間がかかる。そこでザッケローニ監督はもう一度、中村に白羽の矢を立てた。こうした経緯があったがゆえに、指揮官やチームメートの期待に応えなければならない。10月の連戦では、中村から「ベテランの責任感」が強く感じられた。そして、周囲を生かして自分も生きるという彼らしさが随所に出た活躍で、本田不在の問題も瞬く間に解消したかと思われた。

 そして今回、敵地でのタジキスタン戦でも、中村はパスを受けたら空いたスペースに走るという献身的な動きで攻撃陣をけん引した。岡崎が挙げた後半16分の2点目も、駒野友一が出したパスがいったん相手に当たったところを、中村が鋭い反応を見せて追いつき、前を走る香川に出したのが大きかった。これで相手守備陣の人数がそろわずにゴール前が手薄になり、岡崎がフリーの状況を迎えられた。

 ちょっとした場面でもサボらずに確実にチャンスにつなげてくるあたりは、いかにも老練な彼らしい。本人も「パスをもらったら顔を出して、バイタルのところで受けて点に絡むっていうのは多少できていたかな。周りとの絡み方もだいぶ良くなってきている」と全体的なパフォーマンスには前進の手ごたえを感じたという。

 とはいえ、代表キャップ数55という実績を持つ中村にしてみれば、タジキスタンというFIFA(国際サッカー連盟)ランキング130位(11年10月19日現在)の相手なら、このくらいできて当然に違いない。11日の試合後も「おれらはもっと上のレベルでやらないといけないからね。ゴールのところは自分自身、もっとアジャストしないといけない」と手厳しかった。
 ザッケローニ監督もここ最近、「われわれは1つ、2つのチャンスでは決め切れないところがある。よりたくさんのチャンスを作らないといけない」と決定力不足を懸念する発言を繰り返しているだけに、中盤の得点力アップは大きなテーマ。ゲームメーカータイプのトップ下である中村にとっても、避けて通れない重要課題なのだ。

 中村が過去の代表戦で挙げた6ゴールを見てみると、対戦相手はインド、タイ、バーレーン、ベルギー、ガーナ、そしてタジキスタンと格下が多い。それでも09年9月のガーナ戦の得点は、今後へのヒントになりそうだ。フィジカルの強い相手のスキを見逃さず、前田の落としたボールを拾って、素早い反応からたたき込んだ強烈なシュートは中村の真骨頂。あの鋭さが戻ってくれば、もっともっとゴールを量産できるはずだ。

「本田との並存」を実現するために

「トップ下の競争っていうのは常にある。自分は自分の良さがあるし、圭佑には圭佑の良さがあるから、それを出していけばいい」と中村は謙虚に言うものの、チャンスメーカーとして光っているだけでは「本田との並存」はかなわない。ザッケローニ監督が対戦相手や状況次第で2人を使い分けするほどの領域に達するには、両者が同レベルの得点力を兼ね備えていないと難しい。南アフリアで2ゴールを挙げ、最近でもアジアカップのシリア戦や8月の日韓戦(札幌)で得点を挙げている本田は、やはり実績的に上。ザックジャパンでは後発組の中村は、ここから結果を積み重ねるしかない。

 川崎でボランチとしてプレーする中村には高いハードルかもしれないが、より貪欲(どんよく)にゴールを追い求めることはできる。31歳という年齢も気にはなるが、もともと中村は遅咲きの選手。あの中山雅史も30歳を過ぎてから劇的な変化を遂げており、ベテランといえども成長は可能だ。

 さしあたって、次の15日の北朝鮮戦への期待は非常に大きい。すでに最終予選進出が決まっていることから、ザッケローニ監督が3−4−3をテストしたり、清武弘嗣や原口元気ら若手を思い切ってスタメン起用する可能性もある。中村に出場機会があるかどうかは微妙だ。ただ、北朝鮮と日本の複雑な関係を考えると、中途半端な戦い方ができないのもまた事実。4−2−3−1を踏襲して、真っ向から勝ち点3を狙いにいくという考え方もあり得る。

 いずれにせよ、中村が出た場合、手堅い守りを敷いてくる北朝鮮なら、得点力アップを図る最高の相手だろう。しかもチョン・テセという前回対戦のかなわなかった川崎時代の盟友もいて、モチベーションもグッと上がる。そういう中で、ゴールという結果を出せば、ザッケローニ監督の信頼度は確実に高まるはずだ。

 チームを第一に考えられる中村なら、本田が戻ってきた時にベンチに下げられても、できる限り仲間をサポートするだろう。しかし、本人としては南アフリカの二の舞を繰り返したくない気持ちは強い。このチャンスに結果を残せるか否か。それが来年以降の中村の動向を大きく左右するといっても過言ではないだけに、ここで大きな仕事を見せてほしい。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント