FIFAとブラジル政府の対立に潜む不安=ワールドカップは無事に開催されるのか
政権交代で政府とFIFAの関係に変化が
ルセフ大統領(右)の就任により、ブラジル政府とFIFAの関係に変化が生まれている 【写真:ロイター/アフロ】
1年ほど前にブラジルの政権を握ったジルマ・ルセフ大統領は、FIFAと良好な関係を保っていたオルランド・シウバ前スポーツ大臣を汚職にかかわったとして辞任させただけでなく、FIFAが求めるW杯特別措置法案の一部改正に対して否定的な態度を示している。一方、過去の2大会(06年ドイツ大会と10年南アフリカ大会)で思い通りの運営を行ってきたFIFAは、一国の政府に大会の運営条件を制限する権利はないという強硬な姿勢を保っている。
大多数の国民の支持を背に明確な行動をとっているルセフ新大統領のもと、汚職に関与した多くの役人が辞職に追い込まれてきた。労働者党と関係の近い古株の共産主義者であるオルランド・シウバはそのうちの1人にすぎない。
FIFAにとっての問題は、シウバがFIFA前会長ジョアン・アベランジェの娘婿であるブラジルサッカー連盟(CBF)のリカルド・テシェイラ会長と親しい関係にあったことだ。またルラ・ダ・シウバ前大統領は大のサッカー好きでコリンチャンスのファンだったため、彼のもとでは新スタジアムの建設に遅れが生じていたことを除き、W杯開催へ向けた準備が軒並み平和裏に進んでいた。この新スタジアム建設には南アフリカ大会の2倍のコストがかかっているが、FIFAのジェローム・バルク事務局長は「この額は少なくともわれわれが要求したものではない。われわれはスタジアムに黄金やダイヤモンド製の風呂を作るよう頼んでいるわけではないのでね」と主張している。
沈黙を買い取り、すべてを闇に葬り去る
ちょうど2週間前、テシェイラは国会から1000万ドル(約7億7600万円)の収賄容疑をかけられた。彼は義父のアベランジェ、南米サッカー連盟(CONMEBOL)のベテラン会長ニコラス・レオスら南米サッカー界の要人とともに、W杯の放映権を管理していたISL社の倒産問題でも収賄の容疑をかけられている。スイスの裁判所が作成した書類とイギリスのBBCが報じた内容によれば、この問題に関してはいまだに1億2000万ドル(約93億円)の行き先が不明のままだという。
前回のFIFA総会でジョセフ・ブラッター会長は、自身の再選に際して組織の透明性を求めていくことを明言した。18年大会の招致運動でロシアに敗れたイングランドのメディアからたたかれていたこともあるが、その後に彼がISL社の倒産問題に再び取り組み始めたのは偶然だとは思えない。
FIFAの元弁護士は04年、この問題に対して300万ドル(2億3000万円)の示談金を支払った。そして10年のW杯・南アフリカ大会の開催期間中には、さらにスイスの裁判所に490万ドル(約3億8000万円)を支払っている。代わりにFIFAは完全なる沈黙を買い取り、すべてを闇に葬り去ったのだと言われている。