ソフトバンクが涙のCS突破! 屈辱の歴史に決別=鷹詞〜たかことば〜

田尻耕太郎

川崎が、小久保が、本多が泣いた「自然と涙がこぼれていた」

悲願の日本シリーズ進出を決め、涙を浮かべる川崎(左)。内川はCSファイナルステージのMVPに選ばれた 【写真は共同】

「2004年から、負けてベンチで涙を流したことの方が多かった。守っている時からいろいろ思い出して……。本当に感動しました」
 球界一の元気者、川崎宗則の目が潤んでいた。「気づいた時には、自然と涙がこぼれていた」。その顔は、鼻の先まで真っ赤だった。

 ついに、ついに……、福岡ソフトバンクホークスがクライマックスの呪縛を解いた。04年にプレーオフの名称でこの制度が導入されて以来、7度目の挑戦で初めてのクライマックスシリーズ(CS)突破「ダ」!
 川崎だけじゃない。小久保裕紀も、本多雄一も、みんな泣いていた。10月1日のリーグ連覇達成の時とは明らかに違う雰囲気。ヤフードームの満員のスタンドではファンも涙した。テレビの前で声援を送った人も同じ。2011年11月5日は、ホークスとつながるすべての人にとっての悲願が達成された、忘れられない一日となった。

「松中、引退」の罵声…復活した男が放った満塁弾

第2戦の8回に代打で登場し、満塁本塁打を放った松中 【写真は共同】

「クライマックス(の歴史)は自分から始まったようなもの。その屈辱は自分で晴らしたいと思っていた」
 2戦目の8回裏、CS優勝の瞬間と変わらないくらいの大歓声にヤフードームが揺れた。2死満塁、代打・松中信彦の放った満塁ホームランにもファンは感激の涙を流した。

 福岡ソフトバンクCS敗退の歴史は、打てない歴史でもあり、松中はその象徴だった。初年度の04年はシーズンで史上7人目の三冠王を獲得。当然打線のキーマンに挙げられたが、まさかの19打数2安打に終わる。翌05年も4戦目まで無安打でチームの足を引っ張った。
 CS通算打率は1割台。さらに度重なる故障もあり、近年は成績も下降。数年前にはシーズン後のセレモニーで選手が整列している中、「松中、引退」の罵声がヤフードームに響いた。ベンチ裏に戻った松中は自嘲気味に少し笑って、「俺、嫌われているな」と寂しそうにつぶやいた。

 苦しい戦いが続く中で、今季は復調の気配を見せていた。チームが苦しかった夏場に健闘。今季大活躍の内川聖一が怪我で不在の時期に穴を埋めた。しかし、9月14日に死球で右の膝蓋骨、いわゆる膝の皿を骨折。一時はCS出場が絶望視された。現在でも骨は完全にくっついておらず、回復は6割程度。無理をすれば選手生命に関わると医者に言われた。それでも戦列に戻ってきたのは「漢(おとこ)・松中」のプライドだった。

「自分が一番びっくりしたし、興奮もしている。あんなに鳥肌が立ったのは、プロに入ってから初めてかもしれない。自分の空間と、時間を楽しんでベースを一周しました。こういう場面で打つために努力して練習してきた。王(貞治)会長もいつも言われるように、野球の神様はいるんだと思いました。これからも信じてやっていきたい」

 5日のCS突破が決まった瞬間、松中は真っ先にベンチを飛び出した。しかし、それは“フライング”。12回表が終了した時点でソフトバンクの引き分け以上が決まったため、確かに“勝負”は決したのだが、通常の野球のルール通り裏の攻撃もあることをすっかり忘れていたのだ。
「そりゃあさ、それだけ思いが強かったってことだよ。本当に誰よりも悔しい思いをしてきたからね」
 試合後、ビールまみれになった松中は最高の表情でそう話した。

日本一へ、立ち止まる暇などない

 今年のCSは打線が本当に活発だった。主将の小久保は「1週間のあいだ、フェニックスリーグに参戦したことが大きかった。シーズンの延長のような感覚で、昨年ほど(試合勘の)ギャップを感じずに戦えた」と話す。10月22日にレギュラーシーズンを終えたソフトバンクは、たった1日の休みを挟んだだけで宮崎に飛んだ。昨年までは長いシーズンの疲れを考慮して3日ほどの休息をとっていたが、今季は調整法を大きく変えていたのだ。

 ソフトバンクは12日から、8年ぶりの日本シリーズに出場する。ここでも、熱戦を戦い終えたナインに与えられた休日は1日のみ。7日からはヤフードームで全体練習を行う。
「休んでいる暇なんかないんだよ」(秋山幸二監督)
 指揮官は常に前だけを向いている。「今年のスローガンは『ダ』。日本一をとるんダという強い思いで、キャンプからやってきた」と、リーグ優勝のときも、CS優勝でも同じ言葉を口にした。03年以来、チーム名がソフトバンクとなってからは初めての日本一をつかみ取るまで、福岡ソフトバンクホークスは全力で突っ走っていく。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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