見る者を驚かせ続けたカージナルスの“ミラクルラン”

杉浦大介

近年にないドラマチックなシリーズ

カージナルスが最終戦を制し、5年ぶり11度目のワールドチャンピオンに輝いた 【Getty Images】

 それはハリウッド映画も真っ青の見事なカムバック・ストーリーだった。
 10月28日(現地時間、以下同)にセントルイスで行われたワールドシリーズ第7戦で、カージナルスが6−2でレンジャーズに勝利。2勝3敗と先に王手をかけられ、第6戦では2度もあと1死で敗退という瀬戸際に追い込まれながら、その闘志は途切れなかった。9年振りに3勝3敗のまま第7戦にもつれ込んだ激闘シリーズを制し、カージナルスは通算11度目の世界一の座に就いたのである。
「こうしてシリーズを終えても、自分たちがやり遂げたことがいまだに信じられない。すべてを理解するまで、少し時間がかかるかもしれないね……」
 シリーズMVPを受賞したデービッド・フリースが、半ば放心したような表情でそう述べていたのも理解できてしまう。

 いわゆるビッグマーケットチームが絡まないカードとなったため、注目度は高いとは言えず、テレビ視聴率の苦戦が報道された。上原浩治、建山義紀がともにロスターから外され、興味が薄れた日本のファンも多かったかもしれない。
 しかしそんな背景を気にせず1戦ごと見ていくと、これほどスリリングで、ドラマチックで、ファンを興奮させるシリーズは近年にはなかった。

伝説的な試合となった「第6戦」

 いきなり緊迫の投手戦となった第1戦、レンジャーズが土壇場でゲームを引っくり返した第2戦、怪物アルバート・プホルスが3本塁打を放ってファンの度肝を抜いた第3戦、新鋭デレク・ホランドが9回1死までわずか2安打無失点の快刀乱麻で魅せた第4戦、レンジャーズが再び終盤に接戦を抜け出して初の世界一に王手をかけた第5戦……。
 1試合ごとに特筆すべきストーリーがあり、勝負のあやがあった。そして特に第6戦は、歴史に永遠に刻まれるであろう壮絶な一戦となった。

 9回、10回と2イニング続けて「あと1人で敗退」という瀬戸際に追い込まれたカージナルスが、奇跡的な粘りで2度にわたり同点に追いつく。最後は延長11回裏にフリースがサヨナラ弾を放ち、10−9で激闘に終止符を打った。
「逆に君たちメディアに聞きたいけど、このゲームはワールドシリーズ史上最高のゲームの1つじゃないのかい?」
 試合後、スキップ・シューメーカーは取り囲むわれわれにそう尋ねた。そんな歴史的評価は別の機会に譲るとして(ドラマ性はすさまじいが、計5失策もあっただけに“質の高さ”の面ではやや疑問も残った)、まるでジェットコースターに乗っているようにスリリングだったこの大逆転劇が、伝説的なゲームとして今後も語り継がれていくことだけは間違いない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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