槙野智章、理想と現実の狭間で揺れて=評価されない現状、渇望する出場機会
今シーズンの出場時間は33分
所属先のケルンでベンチ生活が続く槙野。監督からの信頼を得られず、厳しい状況に陥っている 【Bongarts/Getty Images】
大きな負傷ではなく単にけいれんを起こしただけだったことと、「ザッケローニ監督に『ドイツで試合に出ていないからだろ』って言われました〜」などとあっけらかんと話す槙野自身の明るい性格とあいまって、笑いを誘った程度で話題は終わった。だが、どれほど槙野が実戦から遠ざかっているか、そのことがどれだけプレーに影響を及ぼすかを、図らずも日本代表という舞台で、あらためて露呈してしまった。
今シーズンに入ってからの槙野のプレー時間は実に33分。第9節のハノーファー戦で味方右サイドバックの負傷により、突如出場機会が巡ってきた、その1度のみだ。ケルンの守備陣の台所事情は苦しいのだが、一向にチャンスは来ない。今後に関しても、決して簡単なものではないと見るのが自然だ。
第10節のドルトムント戦を視察したザッケローニ監督は「お前が試合に出られないレベルじゃないだろ?」と槙野を叱咤(しった)し、激励したという。「監督によっていろいろあるけれど、絶対チャンスは来るから、頑張れとも言われた。すごく、励まされた」と明かす。
確かに、ケルンのサッカーはいかにもブンデスリーガ下位のサッカー。人数をかけてひたすら守り、あとはポドルスキに任せるしか手はない。ただ、その分チーム内の意思統一ははっきりしている。攻守の切り替えも速いといえば速いが、バリエーションはない。ポドルスキ1人でどうにかなる試合もあるにはあるが、「楽に勝てる相手。たいしたサッカーじゃない」と対戦した香川真司が、迷うことなく言うぐらいのものだ。
なぜ出場機会を得られないのか
状況を打破するために、個人的に指揮官と対話を求めたこともある。
「ほかのDFの方が90分を通して安定していると言われている。90分を通したプレーを見せたことはないんだけど」
そう話す表情はさえない。
フィジカルコンタクトを含め、シンプルな1対1をいかに守り切るかが、ブンデスリーガでは何より重んじられる。特に、下位チームではマンマークに近い戦術が徹底され、個人の責任が明確にされる。味方が補完するようなポジショニングよりは、自分自身の責任に穴を空けないことが優先されるのだ。つまり、マークであったり、そのエリアを守り切ることが求められる。
「ゾーンの守り方というのは、ドイツには基本的にない。結局、自分のエリアの責任を持てばそれ以外のことはしない」
槙野の武器といえば、身体能力、統率力とコミュニケーション能力、プラス攻撃力。そのストロングポイントは今のケルンではさほど求められず、ほとんど披露する機会はない。1対1については、ブンデスリーガのDFとしては小柄で華奢(きゃしゃ)であることから、弱いと判断されているのが現実だ。
「日本代表を見据えて、世代交代が進むと思うセンターバックを、ケルンでもやっていきたい。自分はサイドではなくセンターの人間だと思う」
というのが本音だが、センターはおろかサイドバックでもボランチでも、こと1対1に限れば厳しい評価だ。