槙野智章、理想と現実の狭間で揺れて=評価されない現状、渇望する出場機会

了戒美子

今シーズンの出場時間は33分

所属先のケルンでベンチ生活が続く槙野。監督からの信頼を得られず、厳しい状況に陥っている 【Bongarts/Getty Images】

 ちょっとした事件だった。10月7日に行われた日本代表対ベトナム代表戦。先発出場した槙野智章は68分、右足をつってしまい、交代を余儀なくされた。これにより、予定していたFWハーフナー・マイクの出場がなくなり、DF吉田麻也の投入となった。

 大きな負傷ではなく単にけいれんを起こしただけだったことと、「ザッケローニ監督に『ドイツで試合に出ていないからだろ』って言われました〜」などとあっけらかんと話す槙野自身の明るい性格とあいまって、笑いを誘った程度で話題は終わった。だが、どれほど槙野が実戦から遠ざかっているか、そのことがどれだけプレーに影響を及ぼすかを、図らずも日本代表という舞台で、あらためて露呈してしまった。

 今シーズンに入ってからの槙野のプレー時間は実に33分。第9節のハノーファー戦で味方右サイドバックの負傷により、突如出場機会が巡ってきた、その1度のみだ。ケルンの守備陣の台所事情は苦しいのだが、一向にチャンスは来ない。今後に関しても、決して簡単なものではないと見るのが自然だ。

 第10節のドルトムント戦を視察したザッケローニ監督は「お前が試合に出られないレベルじゃないだろ?」と槙野を叱咤(しった)し、激励したという。「監督によっていろいろあるけれど、絶対チャンスは来るから、頑張れとも言われた。すごく、励まされた」と明かす。

 確かに、ケルンのサッカーはいかにもブンデスリーガ下位のサッカー。人数をかけてひたすら守り、あとはポドルスキに任せるしか手はない。ただ、その分チーム内の意思統一ははっきりしている。攻守の切り替えも速いといえば速いが、バリエーションはない。ポドルスキ1人でどうにかなる試合もあるにはあるが、「楽に勝てる相手。たいしたサッカーじゃない」と対戦した香川真司が、迷うことなく言うぐらいのものだ。

なぜ出場機会を得られないのか

 では、そのケルンにいて、なぜ槙野は出場機会を得られないのか。はっきり言えばサイドバックとしても、ボランチとしても、守備において、監督であるソルバッケンの信頼を得られていないということが理由だ。

 状況を打破するために、個人的に指揮官と対話を求めたこともある。
「ほかのDFの方が90分を通して安定していると言われている。90分を通したプレーを見せたことはないんだけど」
 そう話す表情はさえない。

 フィジカルコンタクトを含め、シンプルな1対1をいかに守り切るかが、ブンデスリーガでは何より重んじられる。特に、下位チームではマンマークに近い戦術が徹底され、個人の責任が明確にされる。味方が補完するようなポジショニングよりは、自分自身の責任に穴を空けないことが優先されるのだ。つまり、マークであったり、そのエリアを守り切ることが求められる。
「ゾーンの守り方というのは、ドイツには基本的にない。結局、自分のエリアの責任を持てばそれ以外のことはしない」

 槙野の武器といえば、身体能力、統率力とコミュニケーション能力、プラス攻撃力。そのストロングポイントは今のケルンではさほど求められず、ほとんど披露する機会はない。1対1については、ブンデスリーガのDFとしては小柄で華奢(きゃしゃ)であることから、弱いと判断されているのが現実だ。
「日本代表を見据えて、世代交代が進むと思うセンターバックを、ケルンでもやっていきたい。自分はサイドではなくセンターの人間だと思う」 
 というのが本音だが、センターはおろかサイドバックでもボランチでも、こと1対1に限れば厳しい評価だ。

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著者プロフィール

2004年、ライターとして本格的に活動開始。Jリーグだけでなく、育成年代から日本代表まで幅広く取材。09年はU−20ワールドカップに日本代表が出場できないため、連続取材記録が3大会で途絶えそうなのが気がかり。

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