岡崎慎司が持つ“成り代われる才能”=目指すは世界ナンバーワンのストライカー

小宮良之

身軽に変身を遂げることができる

ダイビングヘッドは岡崎(左)の代名詞だが、彼の本質はそんなに分かりやすい部分ではない 【Getty Images】

 岡崎慎司は、とらえどころのない男である。
「格好いい先輩の服装をめっちゃマネしてみたりするんですけど、全然うまくいかないんですよ」
 迎合する後輩か、と思うとそうではない。
「サイドバックをやらされているときも、本職のFWのため、と割り切ってやっていました。きっと乗り越えられると思っていましたよ」
 したたかな野心家のようにも見えるが、計算高さはない。
「家ではもう1人の子供みたいなもんですよ」
 そう言って天真爛漫(らんまん)に笑う。
 無邪気な子供に近いかもしれない。つまりは感情の赴くままで、とらえどころがない、という印象に落ち着く。

 一生ダイビングヘッド。マスコミや大衆は分かりやすいフレーズを持ち出し、日本代表の点取り屋をキャラクター化しようとした。確かに岡崎は、どんなボールにも頭から飛び込む勇敢さを持っている。それは少年時代に身に付けたプレースタイルの1つで、彼をくくるのにもってこいのエピソードだった。

 しかしながら、彼の本質はそんな分かりやすい部分にはない。岡崎という人間の核は、何者にでも成り代われる柔軟さにある。子供のように欲深いにもかかわらず、どこまでも無垢(むく)で純粋。無心になれる。それゆえ、彼は身軽に変身を遂げることができるのだ。その才能は、誰もが持ち得るモノではない。

バルセロナのFWにも匹敵する才能

 2011年10月11日に行われたワールドカップ(W杯)・ブラジル大会アジア3次予選のタジキスタン戦で、背番号9をつけた岡崎は2得点を決めた。アルベルト・ザッケローニ監督政権下では最多の7得点を記録(3月のチャリティーマッチは除く)。ザックジャパンにおいて、攻撃面での貢献度の高さは本田圭佑や香川真司をもしのいでいる。

「岡崎は動きに連続性があり、しかもスピードを有している。だから、相手のDFは動きを読み切れず、的を絞れない」
 そう証言したのはバスク代表監督を務め、「スペイン最高のスカウティング能力を持つ」と一目置かれるミケル・エチャリだ。レアル・ソシエダのGM(ゼネラル・マネジャー)を20年近く務め、シャビ・アロンソらを発掘。あのジョゼップ・グアルディオラをして「選手分析力と戦術眼は並ぶ者がいない」と言わしめたほどの人物である。

「岡崎は素晴らしいセンスの持ち主だ」とそのエチャリは続けた。
「4−2−3−1のサイドアタッカーに攻撃面で必要とされるのは、まずマークを外し、攻撃を流動的にすることだ。サイドバックを上がらせ、ゴール中央に侵入したり、中盤の選手を使い、サイドからワンツーでゴール前に入ったり、あるいは逆サイドでパスがつながれる間に対角線上にゴール前へ走り込んだりする動きだ。その点、岡崎という選手は絶え間なく、動きや攻撃を活発化させる。どこにスタートポジションを取っていても、ゴールに迫ることができる。天性の点取り屋だね。バルセロナのダビド・ビジャ、ペドロに匹敵する攻撃センスを、この日本人FWは持っている」
 スペインの名士はうなった。

1/2ページ

著者プロフィール

1972年、横浜市生まれ。2001年からバルセロナに渡り、スポーツライターとして活躍。トリノ五輪、ドイツW杯などを取材後、06年から日本に拠点を移し、人物ノンフィクション中心の執筆活動を展開する。主な著書に『RUN』(ダイヤモンド社)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)、『名将への挑戦状』(東邦出版)、『ロスタイムに奇跡を』(角川書店)などがある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント