ネイマール依存症にかかっているブラジル代表=逆風の指揮官に未来はあるのか

大野美夏

若き天才たちが披露したスピードあるダイナミックなプレー

ロナウジーニョ(左)の復帰やルーカス(中央)の台頭はあるものの、ネイマール(右)の才能に依存しているのが実情だ 【写真:ロイター/アフロ】

 指揮官への風当たりは強いが、ポジティブな面がないわけではない。先述したように9月に宿敵アルゼンチンに勝利したことはブラジル国内でも高く評価されている。リオネル・メッシをはじめ主力選手がいなかったアルゼンチンに2−0で勝っただけで、これほどメネーゼスが褒められた理由は、サンパウロの若き天才MFルーカスをスタメン起用し、それが見事にはまったからだ。

「ルーカスをスタメンに使わないのは冗談だろう」とサンパウロでチームメートのリバウドが以前そうコメントしていたが、それはまさに大衆の声を代表していた。途中出場に満足しない観客席からは「ルーカス!」コールも起きていたほどだ。

 それに対して、メネーゼスは「ルーカスはロナウジーニョやネイマールとポジション争いをしているために途中出場なのだ」と説明。「ルーカスのポテンシャルは高く買っている。2014年のW杯には絶対に必要な選手だと思っているから、当然、わたしの期待は大きい。だが、焦ったことはしたくない」と周囲の反応をなだめていた。

 しかし、そう語っていた指揮官が、アルゼンチン戦の直前に戦術を変えた。中盤にルーカスを入れ、積極的に攻撃参加させる戦術にシフトしたのだ。これまでメネーゼスが採用してきた布陣は、中盤をダブルボランチとやや守備的なMFで構成する4−3−1−2。それを、ダブルボランチに守備を徹底させ、3人のオフェンシブハーフと1トップで攻撃を組む4−2−3−1に変更した。3の部分には、ロナウジーニョを司令塔に、左サイドにネイマール、右サイドにルーカスを配置した。

「自分はストライカーではなく、トップ下でやや後方からゴール前に上がっていくのが得意」と語るルーカスは、アルゼンチン戦の後半8分にハーフウエーラインからスピードに乗ったドリブルで相手DFを一気に抜き去り、そのままフィニッシュまで持ち込んだ。また、左サイドからの低いクロスをゴール前に走り込んだネイマールが合わせ、2点目をマーク。彼らが披露したスピードあるダイナミックなプレーこそ「フチボウ・アレグレ(歓喜のサッカー)だ」とサポーターの心をとらえた。

ソクラテスが推薦したのはグアルディオラ

 良い流れの中で迎えた10月7日のコスタリカ戦も、アルゼンチン戦同様にオフェンシブなシステムで臨み、大量得点の期待が高まった。しかし、試合を支配しながらも、両サイドバック(右にファビオ、左にアドリアーノ)の攻撃参加が少なく、コスタリカの厳しい守備をなかなか突破できなかった。
 司令塔の役目を担ったロナウジーニョは、コスタリカの徹底マークに遭い沈黙。ネイマールやルーカスがチャンスを作り出そうとするも、1トップのフレッジが孤立することとなり、しかもフレッジは数少ない好機を生かし切れなかった。

 それでも、後半に入ってすぐにファビオが故障し、ダニエウ・アウベスが出場してからは右サイドが活性化。さらに、ボランチの1人を攻撃センスに優れたテクニシャンのエルナネスに替えると攻撃の幅が広がった。ブラジルが決めた唯一のゴールは、ロナウジーニョから右サイドのダニエウ・アウベスにパスが渡り、低めのクロスをゴール正面に走り込んだネイマールが滑り込みながら右足で押し込んで生まれたものだ。

 ネイマールのおかげで格下相手にノーゴールという失態は免れたとはいえ、批判の声がまたしても巻き起こる結果となってしまった。翌日の新聞には「ひどい試合だった!」「眠気だけが襲った!」「こんなのがセレソンの試合と言えるのか?」「ネイマールの肩にだけ重荷がかかっている」「インスピレーションのない退屈な試合」など、挙げれば切りのないほど批判的な見出しが躍った。

 さらに、インターネット上ではサポーターから、「(コスタリカ戦はブラジル時間の23時キックオフだったため)多くの人が睡魔に勝てず眠りについたように、自分も寝てしまった。だが、目覚めてこの結果を聞いて、こんな試合を見るために起きている必要はなかったと安堵(あんど)した」というたぐいの皮肉や、「メネーゼスはもう辞めろ!」という厳しい声が寄せられていた。

 もちろん、メネーゼスが今すぐクビになることはない。「わたしは瞬間的な結果を求めていない」と言うように、目標はあくまでも2014年W杯。しかも、メネーゼスは五輪代表の監督も務めている。とはいえ、ブラジルのお家芸であったはずの攻撃的サッカーがネイマールのタレント性に支えられている現実を憂う気持ちは、セレソンを愛する者ほど強いのだ。

 9月に腸管出血で生死の境をさまよった元ブラジル代表のソクラテスは、「代表監督を国民投票で決めよう」と提案した。彼が監督に推薦したのは、数多くいるブラジル人監督の誰でもなく、バルセロナのグアルディオラ監督だった。セレソンのシンボル的存在のソクラテスが言うくらいだ。もし国民投票になったら、メネーゼスが選ばれるかどうか……。厳しいだろう。

<了>

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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