先発1トップ定着へ、ハーフナーが迎える正念場

元川悦子

名実ともに日本を代表するFWへと成長

194センチの大型ストライカーにかかる期待は大きい。タジキスタン戦は正念場となる 【Getty Images】

 実のところ、日本サッカー協会の原博実強化担当技術委員長らは、早くからハーフナーのA代表入りを考えていたという。彼は横浜F・マリノスユース時代から将来を嘱望されながら、長身ゆえのボディバランスの悪さ、足元の不安定さ、守備力などの課題が災いして出番に恵まれなかった。このため、アビスパ福岡、サガン鳥栖にレンタルされ、2010年にはヴァンフォーレ甲府へ完全移籍するという“渡り鳥人生”を余儀なくされた。

 しかし、この甲府の地で2010年に20ゴールを挙げてJ2得点王に輝いたことで、評価は急上昇。「『来年J1に上がっても点を取り続けるようなら、その時は必ず代表に呼ぼう』という話はスタッフ会議でも出ていました」と協会関係者も証言する。迎えた今季、ハーフナーはその期待にしっかりと応え、28試合終了時点でJ1得点ランキングトップのケネディに1点差と迫る14ゴールをマーク。名実ともに日本を代表するFWへと成長を遂げた。

「いろんなチームで出番が増えて、自分の動きも変わったし、自信もついた。回り道して今、こうやって代表にいることを誇りに思う。だけど、結果を残していかないとチームには残れない。選ばれ続けるように、練習でも試合でもしっかりとアピールしていければいい」と、本人も自分を冷静に客観視することができるようになってきた。

 こうした地道な積み重ねが、9月の2連戦での緊急招集、そして重圧のかかる本番で決定的ゴールチャンスを2度3度迎えることにつながったのだろう。北朝鮮戦の後半29分にペナルティーエリアやや後方から右足で放ったシュートがクロスバーをたたいた場面は、初キャップの選手とは思えないものだった。高さだけでなく、左右の足から点が取れるハーフナーの長所がよく分かるシーンだった。それだけの潜在能力を秘めており、彼には最近のザックジャパンの停滞感を打ち破れる可能性が確実にある。

攻撃陣の停滞を打破する“ジョーカーの一番手”

 本田の戦線離脱以降、日本の攻撃バリエーションは目に見えて減り、リズムが悪くなっていることは否めない。北朝鮮戦は終了間際の吉田麻也のヘッド、ウズベキスタン戦も岡崎の泥臭い姿勢に救われた部分もあるが、ベトナム戦を含めても1試合1点を何とか取っている状況だ。

 目下、ドイツでの不振が尾を引いている香川は「自分の調子のいい時に比べるとダメですね」と発言するなど自信を失いかけており、岡崎も右ひざの負傷で万全ではない。ベトナム戦で1点を奪った李もDFと堂々と対峙(たいじ)してボールをキープし、十分にタメを作ったとは言い切れない出来だった。その李はタジキスタン戦でも先発出場するだろうが、中3日の連戦で体力的に厳しい上、ベトナムよりフィジカルの強いタジキスタン守備陣の激しいマークにさらされるのは確実だ。90分間フル稼働するのは難しいだろう。

 本田離脱の穴を埋める方法はいまだ見つかっていない。加えて、日韓戦以降の切り札の筆頭だった清武弘嗣も今回、離脱してしまった。となれば、現状で流れや攻撃リズムをガラリと変えられる“ジョーカーの一番手”はハーフナーしかいない。そう見るのがやはり自然ではないか。

「マイクが前にいればすごい見やすい。サイドからセンタリングを上げる僕らも分かりやすい選手がいれば、こっちもやりやすい。ちょっと詰まったときにもマイクの胸で収められるってのがあるしね。僕がアシストしてマイクに点を取らせれば自信もつくし、もっともっとよくなると思います」と長友が前向きにコメントする一方で、4−2−3−1のトップ下に入る可能性が高い中村憲剛も「マイクとは一緒にやったことがないけど、甲府の試合を見ていてサイドからのクロスを点で合わせるのが好きだと思うから、それは意識してやりたい。彼に入ったボールのこぼれは自分が最初に反応しなきゃいけない」とハーフナーといい関係を構築するポイントを具体的にイメージする。

 キャプテンの長谷部も「ハーフナーはもちろん大きな武器になる。あれだけ大きな選手はなかなかいないしね。清武、ハーフナーと新しい選手が台頭してきたことによるチームの活性化はすごくありますから」と大型FWがもたらす刺激を歓迎している。この好機に、彼が大きな一歩を踏み出すことをみんなが心待ちにしているのだ。

「チームが勝つことが第一。誰が点を取ってもいいし、自分も出番があれば頑張りたい」とハーフナーの口ぶりはどこまでも謙虚だが、秘めた野心は強いに違いない。ゴールという結果の蓄積によって苦境から這い上がってきた男には、1点の重みがよく分かっているはず。タジキスタン戦で手ごたえをつかめれば、今後の先発1トップ定着への道も開けてくるかもしれない。森本がノバラ移籍によって再生し始め、前田もコンスタントに活躍している今だからこそ、FWのサバイバル競争から脱落するわけにはいかない。彼にとって今回は、今後の代表人生を左右する正念場と言えそうだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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